第72回コラム「点字ブロックにおける知財」

 今回は、旧安田庭園(墨田区)内に鎮座する駒止稲荷神社(東京都墨田区横網1丁目12-1)をご紹介します。三代将軍徳川家光の頃の寛永八(1631)年台風により、隅田川は深川方面が大水となり視察を命じられた旗本阿部豊後守忠秋は、隅田川の濁流を愛馬を駆って渡り状況を報告しました。家光はその功を賞し一万石を与え、豊後守は旗本から大名に出世したとのこと。その際、愛馬を繋ぎ止めたところが駒止稲荷神社がある場所で、駒止石・駒止井戸が残されています。倉稲魂命は、徳開運十種の徳をそなえ、農工商、衣食住の守護神として信仰の厚い神様とのこと。

【旧安田庭園】
【駒止稲荷神社】
【右奉納額】
【左奉納額】
(筆者撮影)

 駅のプラットホームや歩道等でお馴染みの、通称「点字ブロック」(正式名称「視覚障害者誘導用ブロック」(福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律))が、最初の設置から50年になったとのことです。

 一般財団法人安全交通試験研究センターのHPによると、当該センターの初代理事長であった三宅精一氏が、1963年頃から開発に着手し、鋭意研究の結果、点字ブロックを考案し、1967(昭和42)年3月に岡山県立岡山盲学校近くの国道2号線の横断歩道へ敷設したのが日本初、世界初であるとのことです。
 その後、点字ブロックの普及に尽力し、1970年に旧国鉄阪和線我孫子町駅に設置された後、急速に普及が進んだとのことです。
 しかし、普及の過程において多くの種類が生まれ、混乱が生じたとのことです。
(出所:財団法人安全交通試験研究センターHP「財団の歩み」:http://www.tsrc.or.jp/anzen/history/

 このような公共性ある技術の知的財産権の取得は、普及の障害になるとの考えがあります。
 しかし、各部位の機能等を正しく反映されない模倣品は、安全性等において問題を生じる恐れや、利用者の混乱を招く恐れがあることから、オリジナル製品の開発者は、粗悪模倣品を防止し得る対策を講じることが必要と考えます。
 そこで、三宅精一氏がどのように知財を保護したか調べてみました。
◇特許
 下図に示すように、1972年4月13日に超音波を活用した特許出願(特開昭48-103295)、1976年6月22日に振動発音器と点灯信号機を連動させる事故防止法の特許出願(特開昭52-156599)、及び1976年9月2日に硬質ゴム砕及び他材料の骨材を接着剤で結合してなる防滑性を有する床用化粧平板の特許出願(特開昭53-30676)がありました。

(公開公報を基に筆者において加工)

◇意匠
 下図に示すように、意匠登録は10件ありました。一部は、製造メーカー(広島化成株式会社)と共同で出願しています。

(出所:J-plat-pat)

◇商標
 商標は、ロゴ化された点字タイルと材料表示等を組み合わせた商標等17件取得しています。
 以上より、基本的に、点字ブロックの基本的構造や形状、及び点字ブロックの名称は、権利化されていないことが解りました。ヒットした一部を下記します。

(出所:J-plat-pat)

 三宅氏は、公共性があるので、知財権で制限するのは普及を阻害すると考えたかもしれません。
 しかし、点字ブロックの歴史を俯瞰すると、公共性ある技術は標準化を念頭に置きつつ普及を進める必要があると考えます。
 すなわち、基本的な技術や形状は機能を理解して製造し、名称は統一して用いる等により、所定の品質等を確保し、利用者の安全や混乱を予防する必要があると考えます。換言すれば、公共性ある技術程、特許権、意匠権、又は商標権を取得し、所定の団体に加入すること等により当該技術を利用できるようにし、製造や設置に関する講習を行い、統一名称を使うことにより、安全安心を提供し、混乱を防止することが求められると考える次第です。

 なお、点字ブロックは、2001年9月20日にJIS T9251、2012年3月にISO 23599 として制定されました。

以上

知的財産保護に

電子公証サービス

押印する人