第71回コラム 「自社の知財を如何に守るべきか(タコ型遊具を例に)」

 今回は、第69回においてご紹介した鳥越神社(東京都台東区鳥越2-4-1)内に鎮座する志志岐神社をご紹介します。ご祭神は豊玉姫命(とよたまひめ)です。 本社は、対馬國下懸郡久田村にあり、古来より安産を守る神として崇められているとのこと。宗対馬守が、寛永年間にその邸内社を現在の台東一丁目二番辺りに勧請し、屋敷の守護神となし、安産の神として諸人に参拝させ、平成13年鳥越神社御鎮座1350年を奉祝し、其の社を境内末社として鎮め祀ったとのこと。(境内由緒書きより)

【志志岐神社鳥居】
【案内板】
  【石碑】(筆者撮影)
(出所:前田環境美術株式会社HP)

2021年4月28日、通称「タコの山の滑り台」と呼ばれる公園等に設置される子供向け遊具に関する著作権侵害訴訟事件の判決がありました。概要は、「タコの山の滑り台」(写真1参照)を販売する原告が、同様の滑り台を販売する被告を著作権侵害で損害賠償を求めて訴訟を提起しましたが、著作物性を否定され、敗訴しました。正に、知的財産を如何に守ればかが問われた事件ですので、どのように守れば良いか考えてみました。

 原告は前田環境美術株式会社です。同社の前身前田屋外美術株式会社が1971年頃に東京都足立区の西新井公園に、上部にタコの頭部を模したタコ型の滑り台を販売し、設置したところ人気を博し、全国の公園にも設置されるようになったとのことです(下記原告商品写真を参照方)。
 被告は株式会社アンスです。同社は、平成22年に創立され、前田環境美術社の元従業員が立ち上げた会社であり、下記被告商品写真のタコ型の滑り台を設置しています。
 原告は、不正競争防止法上の不正競争(不競法第2条6項営業秘密)に当たるとして被告を相手に前訴(平成23年(ワ)第41996号)を提起しました。
 さらに、原告は、令和元年に著作権(複製権又は翻案権)を侵害するとし、一基当たり216万円の損害賠償を求めて本件訴訟を提起しました。
 争点は、著作物性です。
 1、応用美術に該当するか?
 「タコの山の滑り台」は、「主として,遊具として利用者である子どもたちに遊びの場を提供するという目的を有する物品であって,「絵画,版画,彫刻」のように主として鑑賞を目的とするものであるとまでは認められない。」と認定し、美術工芸品に該当しないと判示したうえ、「美術の著作物」として保護される応用美術であるかを判示しました。本件原告滑り台のうち,タコの頭部を模した部分等は,総じて,滑り台の遊具としての利用と強く結びついているものというべきであるから,実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている部分を把握できるものとは認められないとして、応用美術の著作物ではないと判示しました。
 2、建築の著作物に該当するか?
 本件原告滑り台は著作権法上の「建築物」に該当すると解することができる、としたうえで、子どもたちなどの利用者に興味・関心や親しみやすさを与えるという遊具としての建築物の機能と結びついたものといえ,建築物である遊具のデザインとしての域を出るものではないというべきである、として建築の著作物ではないと判示されました。
 結果、原告は敗訴しました。

原告商品 [正面]         [右側面]            [左側面]            [背面]

被告商品

(出所:判決書)          

 このような場合、どのようにして自社の知的財産を保護すべきでしょうか。
 以下の方策が考えられます。
 1、退職時の営業秘密保持、競業忌避契約書
  退職時に営業秘密保持及び競業忌避契約が必要と考えます。
  秘密保持においては、営業秘密の特定が重要であると考えます。営業秘密である限り、期間を限定する必要はないと考えます。
  競業忌避においては、同業者への転職禁止、及び自主営業の禁止を約定することが重要であると考えます。忌避期間は最終的には裁判において争うとして、長めに約定しておけば良いと考えます。
 2、意匠権による保護
  本件のような遊具の場合、意匠権による保護が最も適していると考えます。保護期間も出願日から25年であり、長寿命の商品に適しています。バリエーションの意匠も考えられることから、関連意匠制度を利用することにより、効果的な保護をすることが可能であると考えます。
 3、商標権による保護
  立体商標による保護が考えられます。
  商標権は、10年毎に更新が可能であるため、本件のような長寿命の商品には有効です
  「タコの山の滑り台」は特徴的な形状であり、自他商品識別力を有すると考えます。また、滑り台の機能を発揮するために不可欠な形状のみからなる商標でもなく、基礎的な商標登録要件を満たし、他の登録要件を満たすことにより、商標登録可能であると考えます。
 結論としては、これらを組み合わせて重層的に保護することが適当であると考えます。

[本件訴訟]
 令和3年(ネ)第10044号 著作権侵害控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和元年(ワ)第21993号)
判決文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/798/090798_hanrei.pdf

以上

知的財産保護に

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