第92回コラム 「製法特許は取得すべきか秘匿すべきか」

 今回は、東京メトロ「浅草駅」より徒歩約20分の所にある、子育厄除地蔵尊(東京都台東区橋場1丁目36-2)をご紹介します。昭和12年6月30日の火災で焼死した幼児10名の供養のため、昭和28年に建立したとのこと(子育厄除地蔵尊由来より)。隣接して、地場産業である皮革産業に関する製品等を展示する皮革産業資料館があります。同館には、江戸時代から今までの貴重な革製品(読売ジャイアンツの西本選手他スター選手が使用したグローブ、ボクシング世界チャンピオンの具志堅用高選手のグローブ、元大関小錦の靴等)が展示されています。

【正面】
 
【額】
 
【由来】
(筆者撮影)

 第70回コラムにおいて、「日鐵とトヨタ自動車訴訟の妄想」と題して、下図を用い、日本製鐵株式会社(以下「日鐵」という)がトヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ」という)に対して特許権侵害訴訟を提訴したことを、推定した下記3件の特許権と共にお知らせ致しました。
(1)特許第5447167号「無方向性電磁鋼板およびその製造方法」
(2)特許第5560923号「圧延方向の磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板の製造方法」
(3)特許第5601078号「無方向性電磁鋼板およびその製造方法」

 提訴から約二年後の本年11月初旬、日鐵がトヨタへの「請求を放棄」(民事訴訟法266条1項)したとのニュースが流れました。請求の放棄は、同じ理由で同じ相手に対して再度、訴訟を提起することはできないとされています。実質的に、日鐵が敗訴した形で終了したことになります。一方、宝鋼製鐵との訴訟は、継続しています。
 「請求を放棄」した背景を下記の通り推測しました。
 1,方法特許であるため、侵害行為の立証が困難
 2,特許無効を主張され、無効判決による宝鋼製鐵との訴訟への悪影響
 (なお、上記3件の特許に対して無効審判は請求されていないので、侵害訴訟において特許無効の主張がなされたと想定されます)
 3,特許権侵害に対する日鐵の姿勢を外部に対し周知できた
 そうすると、侵害の立証が困難な、方法特許を出願し、権利化する利点があるか疑問が生じると思われます。
 しかしながら、私は方法特許も取得すべきと考えます。
 1,方法の立証は困難であるが、他社に対する牽制は可能
 2,国内で製造している場合、具体的態様の明示義務(第百四条の二)を用いて、具体的態様を明らかにすることを要求可能
 3,特許係争における取引材料になる
 4,自社技術のアピール材料として利用可能
 これらのメリットがあれば、費用を掛ける理由があると思います。
 他にも方法特許を取得すべき理由があると思われます。
 皆様におけるご検討のお役に立てることができれば幸いです。

以上