第46回 「知財活動から生まれたリチウムイオン電池特許」

今月は、千代田区神田岩本町にある「お玉が池」を紹介します。正確にいうと「お玉が池跡」の紹介です。当初は、「桜ヶ池」と呼ばれていたそうですが、茶屋の看板娘「お玉」が、二人の男の板挟みを悩んだ末に入水自殺したことを切っ掛けに「お玉が池」と呼ぶようになったそうです。不忍池程度の面積を有していましたが、江戸後期頃から徐々に埋め立てられて宅地化されたそうです。北辰一刀流千葉周作の「玄武館道場」が近くにあったそうで、千葉周作は「お玉ヶ池の先生」と呼ばれていたそうです。

【現在のお玉が池跡】 【案内碑】 【お玉が池解説立て札】

 

2019年10月9日、日本人の吉野彰氏がノーベル賞を受賞しました。
先日、日本弁理士会の研修において、旭化成(株)在職時に、吉野氏がリチウムイオン電池(以下「LIB」という。)研究中の知財活動をサポートしていた工学博士鶴見隆氏(現株式会社戦略データベース研究所代表)の講演の中で、LIBに関する興味深いお話しがあったので、以下に紹介します。

「ライセンス収入源になった特許は、知財活動の中から生み出された!」との衝撃的(?)な話です。
吉野彰氏は1981年にLIBの研究を始め、トータルで139件の特許出願をしたそうです。旭化成(株)のウェブサイトには6件の代表的な特許が掲載されています。(https://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/r_and_d/interview/yoshino/profile.html)
その中の一件に特許第2128922号(特公平4-52592号)発明の名称「非水系二次電池」があります。正極の集電体にアルミニウム(Al)を使用するというLIBの基本技術です。この特許は、当然に研究の過程で生まれたわけですが、吉野氏はアルミニウムを使った一次電池(放電のみ)は公知であるので、二次電池(充放電可能)で出願しても新規性はあるが進歩性違反で拒絶されるだろうと考え、特許出願には消極的だったそうです。

しかし、同社では、従来技術を特許マップによってマトリックス化して可視化しており、二次電池分野におけるアルミニウムの利用はぽっかりと空白地帯であったそうです。そこで特許部署が後押しして出願し、特許化したとのことです。その意味で「知財活動の中から生み出された!」と言っているそうです。今更ながら、既存技術の見える化は重要ですね。特に、課題と解決手段のマトリックス化が有効そうです。

この特許は出願当時、LIBの将来性が読めなかったため、日本国内に留まり、外国特許はないそうです。これに伴う日本国内でのライセンス収入は、300億円以上と推定され、外国特許も取得していたら、少なくとも一桁、いや二桁多いライセンス収入が得られたかもしれません。
しかし、発明者の思い通りであった場合には、特許出願もされていなかった訳で、知財部署の地道な活動が重要であることを改めて認識した次第です。

以上

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