第13回 「温故知新」従来技術を活用したイノベーションへの挑戦 

この度、繊維機械関連の大きな展示会を見るため初めて上海を訪れました。
成田から3.5時間のフライトです。到着した日が丁度日曜日であったため、上海の銀座に相当する場所に行ってみました。日本では老若男女といいますが、老はほとんどおらず、若者たちの熱気と活力が肌から伝わってきました(写真1参照)。
訪問した繊維機械関連の展示会において、某メーカーの説明員の話が印象に残ったので、以下に紹介致します。読者における新事業の取り組みのご参考になれば幸いです。

繊維産業(織物や編物)と聞くと、皆さんはどの様に感じられているでしょうか? 恐らく、もう時代遅れで日本ではやっていけない衰退した産業であるとイメージされると思います。
しかし、この説明員によると、繊維産業は地球規模で要求される「環境」を考慮すると、今後の重要な「鍵」技術になるというのです。「環境」につながるキーワードとして、この説明員は「省資源」及び「軽量化」(軽量化は、大きな意味で省資源に含まれるかもしれません)を挙げました。
ではなぜ、繊維産業が「省資源」及び「軽量化」に密接に関連するのでしょうか?

まず「省資源」ですが、従来は平面的な材料を機械加工やプレス加工によって必要に応じた立体的な形状に加工して様々な製品を作ってきました。
平面から立体への変換には、材料・エネルギー・工数等、様々な、多くの無駄が生じます。これらの無駄を省くには、工程を省く必要があります。そのためには、編物を利用して一気に立体的形状にすれば、材料の無駄を省いて低コスト化が出来、又、途中の工程を省くことにより、消費エネルギーも減少させることが出来るのです。

次に「軽量化」ですが、従来、機器の構造材としては、金属材料、特にコストを考慮すると、鉄が多く用いられています。鉄の比重は7.6であり、重量は重くなります。これを軽量化するには、アルミやマグネシウムを使う必要がありますが、高価になってしまいます。また、樹脂化も考えられますが、高強度の樹脂は同様に高価であると共に熱に弱い問題があります。そこで炭素繊維の活用が提案されていますが、炭素繊維品も同様に高価であるという問題があります。
炭素繊維品が高い理由は、折れやすい性質を補うのに、手作業による特殊技術が必要であるためです。
この手作業を機械化できれば、高品質・軽量化・高強度化・低コストの構造材を得ることが出来ます。この機械化のため、説明員は編物の技術を利用することが出来るというのです。
旧来の編物技術を活用して機械化が出来れば、高価な炭素繊維品もコストが下がり、様々な用途に使われるようになるでしょう。

例えば、自動車の構造材を例にとって考えると、
自動車は現在、石油エネルギーの消費によるCO2増加の大きな環境負荷原因になっています。一方、人類の生活上、車は必須の道具になっており、廃止したり、減少させることは出来ません。そこで、燃費を向上させることが重要になっています。そのため、軽くて強度の高い炭素繊維に置き換えることが試みられています。しかし、炭素繊維は折れやすいため、注意深い取り扱いが必須であり、機械化は一部に限られていることから、高コストの原因になると共に普及の足かせになっています。そこで編物の技術を活用したイノベーションによって、一気に立体的な最終部品を機械的に製造できれば、材料やエネルギーの無駄を大幅に削減できると共に、自動車の運用においても燃費向上につながり、地球環境改善に大きく貢献すること必定です。

このイノベーションは容易ではありませんが、地球環境改善の一手段としての魅力を感じると共に、旧来の技術を使ってイノベーションを起こそうとする発想力に驚かされ、読者の皆様も、このような視点で製品開発をされては如何と思い、紹介した次第です。

(写真1)上海の繁華街

(展示会の会場の写真)

以上

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