第14回 「中国においてビジネスをする際に知財面において最低限必要なこと」

我が国との関係が冷え込んでいるといえども、13.5億人の巨大中国市場は魅力的です。既に中国に進出又は近い将来進出しようという方は多いのではないでしょうか。
中国はグラフ1に示すように世界一の知財訴訟大国であり、グラフ2に示すように特許出願も世界一の件数(グラフは無いが、実用新案出願、意匠出願及び商標出願の何れも世界一)であると共に、グラフ3及び4に示すように、実用新案及び意匠は何れも中国人の出願が9割を超えています。また、近年技術的進歩も急速進んでおり、侮ることは出来ません。すなわち、無防備で中国においてビジネスすることは極めて危険です。

そこで、既にご承知のことと存じますが、中国におけるビジネスをする際の知財面での注意事項について、中国国内で活躍する中国人弁理士のアドバイスも交えながら再確認したいと思います。なお、「中国におけるビジネス」とは、中国国内で生産するのみならず、中国へ商品を輸出し、サービスを提供することをも含みます。

(1)中国国内で商品を生産又は販売する場合
①中国特許・実用新案・意匠の調査は最低限行うこと。
有料データベースを使わずに自社で行う場合、ESPASNET又はSIPO(中国国家知識産権局)の無料データベースを用いることができます。日本人としては、中文よりも英文の方が誤訳少なく調査できると思いますので、ESPASNETの方が使い勝手が良いのではないでしょうか。データは、中国での公開から6ヶ月遅れ程度で更新されるとのことですので、ESPASNETで十分であるとのコメントがSIPOの元審査官よりありました。
出願番号の先頭にCNを入力し、IPC又はキーワード等とのアンド検索をし、ヒットリストを一件ずつ確認して行けばOKです。要約の英訳だけでは技術内容の把握が困難な場合には、SIPOにおける公報図面も参照することをお薦めします。すなわち、ESPASNETとSIPOの併用です。
なおSIPOの検索方法については、日本の特許庁の新興国等知財情報データバンクにて紹介されていますので、こちらを参考にしてください。
http://www.globalipdb.jpo.go.jp/etc/1597/
物品の名称は、中国人に確認することが最も安全です。しかし、Google翻訳を利用し、日本語又は英語から中文に変換し、コピー&ペーストすることもできます。
②自社の特許が侵害する中国実用新案権を発見した場合は、進歩性に関する有効性判断をする。
不幸にして侵害してしまう実用新案権を発見した場合の進歩性判断の基本は、組合せた構成が有する単純な効果の発揮だけではなく、組合せによって発揮される相乗効果が存在するか否かにかかっているとのアドバイスが中国人弁理士よりありました。
例えば、特許請求の範囲の構成がA+B+Cで有る場合、作用・効果が単にそれらの各構成の発揮である場合、登録要件を満たさないことから無効にされる。しかし、組合せによる新たな作用効果が存する場合、無効審判において無効にならない事例が多い。
③ 先願権又は先使用権を確保しておくこと。
①の調査によって第三者の権利が見つからなかったとしても、安心できません。販売された商品を見て第三者が冒認出願することは十分想定されます。
そこで、
ア 特許・実用新案又は意匠出願し、先願権を確保すること。
なおこの際、将来の権利行使方法を念頭に出願法域を決定する。
中国人弁理士のコメント:費用を安価に抑えるため、行政ルートによる解決を指向する場合、意匠・商標を選択するのが良い。行政ルートの役人は、技術的なことは判断出来ず、外形等の類否であれば判断が可能だからです。
イ 先使用権立証証拠を公証人の公証を得て保管すること(中国で生産している場合のみ適用、販売には先使用権は認められない)。
現物の公証:段ボール箱に入れられる製品の場合、現物を段ボールに入れ、封印。
段ボール箱に入らない場合、図面、写真、取説他の関連資料を段ボール箱に入れて公証してもらう。
中国人弁理士のコメント:内容にもよるが、小型・簡易な物の場合、10万円代から可能とのこと。
なお、タイムスタンプ+電子署名も証拠資料になるが、現在の処、中国政府の認可を得た電子スタンプ及び電子署名業者であることが必要条件になっています。
④中国で販売のみ行う場合、販売の事実を立証できるようにしておくこと。
ア 公証
販売製品の内容又はサービスの内容及び開始時期を公証してもらう。
手続き、費用等は上記③イと同様。
イ HPにて公開
自社HPにて公開している販売製品の内容又はサービス内容及び掲載時期を公証してもらう。
中国人弁理士のコメント:HPでの公開日、公開内容等の中国公証人の公証必要、費用は10万円ぐらい。

以上

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