第75回コラム 「外国にサーバーがある場合の特許権行使について」

 今回は、先月ご紹介した東京ミズマチから隅田川沿いに約1Km上流にある長命寺(墨田区向島5-4-4)をご紹介します。三代将軍家光がこの辺りに鷹狩に来た時、急に腹痛をおこしましたが、当時の住職が加持した庭の井の水で薬を服用したところ痛みが治まったので、長命寺の寺号を与えたとのこと。雪見の句碑には「いざさらば 雪見にころぶ所まで」と読まれています。本堂に安置する弁財天は、隅田川七福神の一つに数えられています。(「すみだの史跡文化財めぐり」より)隣接して、長命寺桜餅、言問団子の茶屋があります。

【長命寺本堂】
【長命寺裏門】
【松尾芭蕉雪見の句碑】
【石碑群】(筆者撮影)

 今回は、下記裁判について紹介します。

【裁判所】 東京地方裁判所
令和元年(ワ)第25152号 特許権侵害差止等請求事件
判決言渡 令和4年3月24日
原告 株式会社ドワンゴ
被告 FC2,INC
■訴訟の経緯
FC2の提供する、コメント機能付き動画配信サービスである「FC2動画」、「FC2 ひまわり動画」及び「FC2 Saymove!」において、発明の名称を「コメント配信システム」とする特許第6526304号の特許権を侵害するとして差止請求、及び損害賠償を請求した訴訟です。

■争点は、下記(1)乃至(8)です。
(1)  準拠法(争点1)
(2)  被告システムが本件発明1の技術的範囲に属するか(争点2)
(3)  被告システムが本件発明2の技術的範囲に属するか(争点3)
(4)  被告らによる被告システムの「生産」の有無(争点4)  20
(5)  無効の抗弁(特許法104条の3第1項)の成否(争点5)
ア  特開2004-193979号公報(以下「乙17公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由1)(争点5-1)
イ  特開2004-297245号公報(以下「乙18公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由2)(争点5-2)
ウ  特開2004-15750号公報(以下「乙19公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由3)(争点5-3)
エ  山本大介、長尾確「閲覧者によるオンラインビデオコンテンツのアノテーションとその応用」人口知能学会論文誌  Vol.20  2005年(以下「乙20文献」という。)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由4)
(争点5-4)
オ  特開2003-111054号公報(以下「乙21公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由5)(争点5-5)
カ  国際公開第00/64150号(以下「乙24公報」という。)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由6)(争点5-6)
キ  米国特許出願第2004/0098754号明細書(以下「乙25文献」という。)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由7)(争点5-7)
ク  明確性要件違反(無効理由8)(争点5-8)
ケ  サポート要件違反(無効理由9)(争点5-9)
コ  実施可能要件違反(無効理由10)(争点5-10)
サ  先願要件違反(無効理由11)(争点5-11)
シ  分割要件違反による新規性、進歩性欠如(無効理由12)(争点5-12)
ス  優先権主張の要件違反による進歩性欠如等(無効理由13)(争点5-13)
セ  公序良俗違反(無効理由14)(争点5-14)
(6)  原告による本件特許権の行使が権利の濫用に当たるか(争点6)
(7)  損害の発生の有無及びその額(争点7)
(8)  差止請求及び除却等請求の当否(争点8)

■ 判決
(1)  準拠法(争点1)
 特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は、当該特許権が登録された国の法律であると解すべきであるから、本件特許権が登録された国の法律である日本法が準拠法となる。
(2)  被告システムが本件発明1の技術的範囲に属するか(争点2)
 被告システムは本件発明1の技術的範囲に属するものと認められる。
(3)  被告システムが本件発明2の技術的範囲に属するか(争点3)
 被告システムは本件発明2の技術的範囲に属するものと認められる。
(4)  被告らによる被告システムの「生産」の有無(争点4)
 被告システムは本件発明の技術的範囲に属すると認められるものの、本件特許が登録された令和元年5月17日以降において被告らによる被告システムの日本国内における生産は認められず、被告らが本件発明を日本国内において実施したとは認められないから、被告らによる本件特許権の侵害の事実を認めることはできない。
争点(5)~(8)は判断されず。

■衝撃的な判決
一部の処理が、外国に置かれたサーバーによって実行されることから、日本国内において実施したとは認められないとの判決は衝撃的です。
この判決が確定し、特許発明の一部の処理を外国に設置したサーバーで行うことにより、特権侵害を回避できるとすると、容易に回避でき、特許権者を適切に保護できないと思います。
 ドワンゴの執念を考慮すると、控訴審は確実であると思われます。
 控訴審において、判決が逆転されることを願う次第です。
 控訴されず、判決が確定した場合、一部が外国に設置されたサーバーで行われる場合であっても、サービスが日本国内で提供される場合、日本国内での実施と見做されるような特許法の改正が必要と思います。

■ドワンゴの執念に驚愕
 下図に示すように、本件特許は分割出願を8回も行って取得した特許です。
 それにも拘わらず、非侵害判決とは・・

以上

特許発明のアイデア保全に

電子公証サービス

押印する人