第42回 「平成31(令和元)年特許法等の一部を改正する法律」が意匠戦略に与える影響について
今回は、JR神田駅北口近くにある一八稲荷神社を紹介します。徳川時代初期に、伏見稲荷神社の御分霊を勧請したと伝えられ、戦前までは新銀稲荷と呼ばれ、防災盗難除けの御神徳で知られていたそうです。先の大戦において東京中が火の海と化した時も神社一帯は焼失を免れたとのことです。毎月一と八の日に市が立ったことから、現在の一八稲荷神社になったとのこと。
【一八稲荷正面】 | 【神額】 | 【国威宣揚の碑】 |
令和元年意匠法改正における保護対象の拡充等について紹介すると共に、今後の知財戦略に与える影響について簡単に検討してみました。
今回の意匠法改正のポイントは以下の6点です。
① 物品に記録・表示されているか否かにかかわらず、表示画像や操作画像そのものを保護することができる。しかし、従来通り、壁紙等の装飾的な画像、映画・ゲーム等のコンテンツ画像など、画像が関連する機器等の機能に関係のない画像については、改正後も保護されない。
具体的事例
保護対象1:物品の機能を発揮するために必要な画像(第2条第1項)
「腕時計の時刻表示」 | 「方位計測機能付き電子計算機」 |
出所:特許庁平成30年8月6日意匠制度の見直しの検討課題11頁
保護対象2:物品の機能を発揮させる操作を行う画像
「磁気ディスクレコーダー」 | 「音楽再生機能付き電子計算機」 |
出所:特許庁平成30年8月6日意匠制度の見直しの検討課題11頁
今回の改正によって保護対象になった画像
物品に固定(記録)されなくともよい。すなわち、Webサーバに固定されインターネットを介して端末機器に表示される画像も保護対象になりました
(株)ナビタイムジャパン
出所:特許庁平成30年8月6日意匠制度の見直しの検討課題12頁
「壁面投影画像」 | 「人体投影画像」 |
出所:特許庁平成30年8月6日意匠制度の見直しの検討課題17頁
壁面、道路、人体等に投影する、物品と関係無い画像も保護対象になりました。
考察
⇒想定外の意匠権が成立する可能性が大きくなりそうです。
想定外の事態に対処するため、予防対策が重要です。
意匠出願、公知化、又は先使用権立証書類の準備を、適切に行うことが必要と考えます。
② 「建築物」(不動産)についても意匠権で保護することができる。
「コメダ珈琲店岩出店」
出所:コメダ珈琲店:特許庁平成30年8月6日意匠制度の
見直しの検討課題23頁
「リンガーハット」https://www.ringerhut.co.jp/three_minutes/
考察
商標や不正競争防止法による保護が主であったため、差止を求めるには、商品・サービスとの関連や、著名性が必要でしたが、単に外観が類似であれば、意匠権侵害になります。建築物を模倣する場合は一層の注意力が必要です。
③ 複数の物品や建築物、画像から構成される内装のデザインについて、「内装全体として統一的な美感を起こさせる」という要件を満たす場合に限り、一意匠として意匠登録を受けることができる。
「カルチュア・コンビニエンス・クラブ運営「武雄市図書館」」 出所:CCC:特許庁平成30年8月6日意匠制度の見直しの検討課題23頁 |
「米国の内装デザインの登録例(トレードドレス)登録番号4839216」 特許庁平成30年8月6日意匠制度の見直しの検討課題27頁 |
考察
上記同様に、単に外観が類似であれば、意匠権侵害になります。建築物の内装を模倣する場合は一層の注意力が必要です。
④ 関連意匠の出願可能期間を、改正後は、本意匠の出願から10年以内とする。
ただし、関連意匠の設定登録時に、本意匠が既に消滅している場合には、関連意匠の登録は認められない。
(筆者作成)
長期スパンの意匠戦略の保護 出所:特技懇No.274 26頁
考察
他社の一貫性あるデザインに類似したデザインは、意匠権侵害のリスクが高まります。デザインの真似は注意が必要です。
⑤ 意匠権の存続期間は、「設定登録の日から20年」から「意匠登録出願の日から25年」に変更する。
関連意匠の意匠権の存続期間は、「基礎意匠の意匠登録出願の日から25年」とする。
(筆者作成)
考察
寿命の長い商品には、権利期間が延び、朗報です。但し、登録日から20年の制度を活用していた場合、メリットの享受が少なくなりました。
⑥ 現行意匠法では、省令で定める物品区分表の区分と同程度の区分を記載していない出願については、拒絶理由の対象とされており、権利化の遅延につながっている。これを直ちに拒絶理由としない仕組みとする。
考察
意匠に係る物品名が正しくなくても、拒絶されないケースが増えそうです。応答の手間又は費用の軽減が期待できます。
以上