第96回コラム 「特許非公開制度が始まります」

 今回は、東京メトロ・都営浅草線「人形町」駅より徒歩約5分の場所に鎮座する、富澤稲荷神社(とみざわいなりじんじゃ)(中央区日本橋富沢町7-18)をご紹介します。昭和25年に元弥生町・新大阪町・元浜町の稲荷社が合祀され、富沢町の守護神として祀られています(東京都神社名鑑より)。

【正面】
 
【神額】
 
【参道】
(筆者撮影)

 本年(2024年)5月1日より、経済安全保障推進法に基づいて、我が国においても特許出願非公開制度が開始されます。以下概要を記載しますのでご確認下さい。
 特許出願非公開制度とは、下図1に示すように、特許出願の明細書等を公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載されていた場合には、「保全指定」手続により、出願公開、特許査定及び拒絶査定といった特許手続を留保するものです。
 特許出願を非公開にするかどうか(保全指定をするか否か)の審査は、特許庁による第一次審査と内閣府による保全審査(第二次審査)の二段階に分けて行われます。また、本制度開始後は、一定の場合に外国出願(PCT出願も含まれます。)が禁止されますので、外国出願禁止の対象となるか事前に特許庁長官に確認を求める制度(外国出願禁止の事前確認)も新設されます。
 保全指定された場合、出願の取り下げ不可、実施は許可制、開示は原則禁止、適正管理義務、他社への共有は承認制、外国出願禁止になります。
 実施の許可制等により、出願人が受ける通常生ずるべき損失が補償されます。
 日本出願後、10ヶ月以内に保全指定されなければ外国出願禁止は自動的に解除されます。
 意外と思われる技術が指定される可能性がありますので、皆様方におかれましても念のため確認されることをお勧め致します。
 疑問等がありましたら、近くの弁理士にご相談下さい。

【図1】
(出所:href=”https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/hikokai/index.html)

 日本国内で創作した発明であって、次の25の技術分野のうち、国際特許分類に従い政令で指定された技術の分野(「特定技術分野」(注1))に該当する発明が、原則として外国出願禁止の対象です。このうち下記(10)~(19)に該当するものは、併せて後述の付加要件も満たす発明が対象です。
(注1:特定技術分野の詳細は、以下の資料をご覧ください。https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/tokutei_gijutsu_bunya.pdf
【技術分野】
(1)航空機等の偽装・隠ぺい技術
(2)武器等に関係する無人航空機・自律制御等の技術
(3)誘導武器等に関する技術
(4)発射体・飛翔体の弾道に関する技術
(5)電磁気式ランチャを用いた武器に関する技術
(6)例えばレーザ兵器、電磁パルス(EMP)弾のような新たな攻撃又は防御技術
(7)航空機・誘導ミサイルに対する防御技術
(8)潜水船に配置される攻撃・防護装置に関する技術
(9)音波を用いた位置測定等の技術であって武器に関するもの
(10)スクラムジェットエンジン等に関する技術(※)
(11)固体燃料ロケットエンジンに関する技術(※)
(12)潜水船に関する技術(※)
(13)無人水中航走体等に関する技術(※)
(14)音波を用いた位置測定等の技術であって潜水船等に関するもの(※)
(15)宇宙航行体の熱保護、再突入、結合・分離、隕石検知に関する技術(※)
(16)宇宙航行体の観測・追跡技術(※)
(17)量子ドット・超格子構造を有する半導体受光装置等に関する技術(※)
(18)耐タンパ性ハウジングにより計算機の部品等を保護する技術(※)
(19)通信妨害等に関する技術(※)
(20)ウラン・プルトニウムの同位体分離技術
(21)使用済み核燃料の分解・再処理等に関する技術
(22)重水に関する技術
(23)核爆発装置に関する技術
(24)ガス弾用組成物に関する技術
(25)ガス、粉末等を散布する弾薬等に関する技術
 (※)はさらに下記付加要件に該当するものが対象
【付加要件】
 上記(10)~(19)の技術分野に該当する発明は、保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと考えられるため、併せて次の(イ)~(ハ)のいずれかに該当する発明が、外国出願禁止の対象です。
(イ)我が国の防衛又は外国の軍事の用に供するための発明
(ロ)国又は国立研究開発法人による特許出願に係る発明(国及び国立研究開発法人以外の者と共同でしたものを除く。)
(ハ)日本版バイ・ドール制度(産業技術力強化法第17条)、又は科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律第22条の適用を受けた特許出願に係る発明
【保全審査】
1.の外国出願禁止の対象となる発明については、さらに、内閣総理大臣(内閣府)により、当該発明に係る情報の保全(当該情報が外部に流出しないようにするための措置)をすることが適当と認められるかについての審査(「保全審査」)が行われます。保全審査の結果、保全指定をしないと判断された場合は、外国出願禁止の対象から外れます。
2.外国出願禁止の対象となる発明か否かを確認する方法
(a)特定技術分野に該当するか判断に迷う場合
 特定技術分野に該当する発明かどうか判断に迷う場合は、内閣府・経済産業省令第5条第1項(注2)で定められた様式の申出書に2万5000円の手数料に相当する収入印紙を貼って提出することで、事前に特許庁長官に確認をすることができ、資料が長大である場合などを除き、おおよそ10開庁日程度で回答が得られます。
 ただし、この事前確認は、「特定技術分野に該当し、かつ、付加要件がある場合は付加要件も充たす発明」かどうか確認が出来るだけで、保全審査のように保全指定をすべき発明か否かの判定をするものではありません。つまり、この事前確認では、特定技術分野に該当し、かつ、付加要件がある場合は付加要件も充たす発明であれば、原則として外国出願禁止の対象とされることに留意が必要です。
(注2:内閣府・経済産業省令第5条第1項の様式は、以下の様式第3をご参照ください。)
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/hikokai/document/qa/1_18.pdf
(b)保全審査を含めて外国出願禁止の対象でないことを確認したい場合
 特定技術分野に該当する可能性が低くないと考える場合は、日本での権利取得を望むか否かにかかわらず、初めから日本への出願をすることも一案として考えられます。
 この場合、
・出願日から3か月以内に、保全審査を行うために特許庁から内閣府に送付した旨の通知が発せられなかったとき
・保全指定がされることなく出願日から10か月が経過したとき(出願の却下・放棄・取下げがあった場合を除く)
等の条件に該当すれば、外国出願が可能になります。
 ただし、日本への出願を行い、いったん保全指定がなされると、出願の取下げが出来なくなるほか、保全対象発明の、実施の制限・開示の禁止・適正管理措置義務・情報漏洩に対する刑事罰等、出願人に様々な制約がかかることになります。
3.その他
 ここでは外国出願禁止に関する主な留意点を説明しましたが、他にも留意すべき制度、例外措置等があります。
 詳細は以下のWebサイトをご確認下さい。
【制度詳細】
(1)特許出願の非公開に関する制度
 https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/hikokai/index.html
 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/patent.html
(2)特定技術分野及び付加要件の概要
 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/tokutei_gijutsu_bunya.pdf
(3)経済安全保障推進法の特許出願の非公開に関する制度のQ&A
 https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/hikokai/qa.html
 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/patent_qa.pdf
(4)損失の補償に関するQ&A
 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/patent_sonshitsu_qa.pdf
(5)特許出願の非公開に関する制度における適正管理措置に関するガイドライン(第1版)
 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/patent_tekisei_guideline.pdf
(6)経済安全保障推進法TOP(経済安全保障制度の各種情報へのリンクあり)
 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/index.html
【内閣府令・命令】
(7)経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する
   法律に基づく特許出願の非公開に関する内閣府令(令和5年内閣府令第78号)
  【e-Gov法令検索】
   https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505M60000002078_20240501_000000000000000
(8)内閣府・経済産業省関係経済施策を一体的に講ずることによる安全保障確保の推進に関する法律に基づく特許出願の非公開に関する命令
  (令和5年内閣府・経済産業省令第5号)
   https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/syoreikaisei/sangyozaisan/20231218.html

以上