第81回コラム 「中国における職務発明について」

 今回は、東京メトロ千代田線の南千住駅より南東へ徒歩13分の地に位置する玉姫稲荷神社(東京都台東区清川2-13-20)をご紹介します。同神社は、天平宝宇四庚(760年)に創建され、宇迦之御魂命(うかのみたまのみこと)をご祭神とするとのこと。当地は靴製造業者が多く、毎年11月に靴の安売り市が開かれるとのこと。

【正面】
【本殿】
【神額】
【狛犬】(筆者撮影)

 前月に引き続き、中国知財情報をお伝え致します。
 今月は、第4回専利法改正を反映した、中国における職務発明です。
 日本と中国の職務発明制度は、大きな違いがあり、以下について留意する必要があります。
重要な項目は以下の3点です。
1,日本の職務発明規定を流用する場合、中国の規定に適合させる
2,職務発明規定を制定する場合以下に留意する
  ① 制定プロセス・金額(報奨金等)の合理性
  ② 支給プロセス、支給法、及び金額を明確に規定
  ③ ノウハウの取扱も制定
3,中小企業の(発明者が少ない)場合、発明者との個別契約も可能
4,以下、上記重要項目について少し詳しく説明します。
 ◆中国における職務発明は、以下の要件が必要です。
 (1) 従業員が職務上なした発明、又は主として会社の物質的、技術的条件を利用してなされた発明であること。
 (2) 従業員が会社の指示に基づいてなした発明
 (3) 従業員が離職(退職、元の職場からの転勤または労働、人事関係の終了)後1年以内になした、元の職場での職務に関する発明
 (4) 従業員が主に会社の物質・技術条件を利用して完成した発明
 ◆従業員⇒社員、嘱託者、一時雇用者、出向者、役員、顧問等
 ◆立証証拠⇒雇用契約書、給与支払い等
 ◆職務⇒雇用契約書、職務管理規定等、業務指示書、メール等記録に残す。
 ◆発明⇒発明届にて届け出
 ◆会社の物質・技術条件を利用して完成した発明⇒会社の物質・技術条件を主として利用していない発明も職務発明とする契約も可
 ◆報奨金
 (1) 個々の契約が優先される。
 (2) 契約又は社内規定がない場合の取扱
   出願時対価(専利法第 16 条)
   3000元(約42000円)以上/1特許権
   1000元(約14000円)以上/1実用新案権
   1000元(約14000円)以上/1意匠権
 (3)自社実施の場合の対価
   特許権/実用新案権 毎年 営業利益の 2%以上
   意匠権 毎年 営業利益の 0.2%以上
   他社に実施許諾する場合の対価(特許法実施細則第78条後段)
   特許権/実用新案権/意匠 使用料の10%以上
   中国の各地方政府は、中国特許法、特許法実施細則の規定に違反しない範囲で、職務発明の対価を規定する。重慶市、山西省、青島は、上記対価より高い額に設定。
 (4)報奨金を法定金額より低額とする場合の留意点
(A)プロセスの合法性
    ア 従業員又はその代表との協議
    イ 従業員の同意書
    ウ 制度の公開
    エ 研修会での周知
 (5)金額の合理性
    ア 企業の性質、産業の特徴、特許出願の目的、特許の実施可能性、所在都市の経済発展のレベル等に基づき、金額の合理性を判断
    イ 約束した報奨金が極端に低い場合は、不合理なものと判断される可能性がある。
    ウ 奨励・報酬の基準が不合理である場合、裁判所は法定最低基準を直接適用するわけではなく、実情に応じて合理的な金額を算定する。
 (6)技術ノウハウを含む職務技術成果
    ア ノウハウとして取扱⇒従業員との約定や社内の規程がない場合、奨励金を支払わなくてもよい。
    イ ノウハウを実施し、経済的利益を受けた場合⇒報酬を支払
      社内規定あり⇒社内規定に従う
      社内規定無し⇒譲渡、ライセンスの場合、正味収入の50%以上
      株として投資した場合:株又は出資比例の50%以上
      科学技術成果が実施化され、産業化した場合、毎年営業利益の5%を3~5年連続して支払う。(科学技術成果転換促進法第45条)
    ウ ノウハウの実施報酬について、従業員との約定や社内の規程がない場合

【ご参考】
「我が国、諸外国における職務発明に関する調査研究報告書」(2013年3月、知的財産研究所)
II.4 中国の職務発明制度について
●特許法第6条
 所属会社の任務を遂行し、又は主として所属会社の物質的、技術的条件を利用して完成された発明創造は、職務発明創造とする。職務発明創造の特許を受ける権利は、所属会社に帰属し、出願が登録された後、所属会社が特許権者となる。
 非職務発明創造については、特許を受ける権利は発明者又は考案者に帰属し、出願が登録された後、当該発明者又は考案者が特許権者となる。
 所属会社の物質的、技術的条件を利用して完成された発明創造について、所属会社と発明者又は考案者との間に、特許を受ける権利及び特許権の帰属について取り決めがある場合には、その取り決めに従う。

●特許法実施細則第12条
 特許法第6条にいう「所属会社の任務を遂行し、完成された職務発明創造」とは、以下に掲げるものをいう。
 (1)本来の職務において行った発明創造
 (2)所属会社から与えられた、本来の職務以外の任務の遂行により行われた発明創造
 (3)定年退職、転職、又は労働、人事関係終了後1年以内に行った、元の会社で担当していた本来の職務又は元の会社から与えられた任務と関係のある発明創造
  特許法第6条に言う「所属会社」には、一時的に勤務する会社を含む。
特許法第6条に言う所属会社の物質的、技術的条件とは、所属会社の資金、設備、部品、原材料、又は対外的に公開されていない技術資料などをいう。

●特許法実施細則第13条
特許法にいう発明者又は考案者とは、発明創造の実質的特徴に対して創造的な貢献をした者をいう。
発明創造を完成させる過程に於いて単にその仕事を組織した者、物質的、技術的条件の利用に便宜を提供した者、又はその他の補助的な作業に従事した者は発明者又は考案者ではない。
特許法第16条
特許権を付与された会社は、職務発明創造の発明者又は考案者に対し奨励を与えなければならず、発明創造が実施された後、その普及と応用の範囲及び得られた経済的効果に基づき、発明者又は考案者に合理的な報酬を与えなければならない。

●特許法実施細則第76条第1項
特許権が付与された会社は、特許法第16条に規定する奨励、報酬の方式と金額について発明者又は考案者と約定することができる。
特許法実施細則第77条
特許権が付与された会社は、発明者又は考案者と特許法第16条に規定する奨励、報酬の方式と金額について約定しなかった場合、特許権公告日より3ヵ月以内に発明者又は考案者に報奨を支給しなければならない。特許一件あたりの報奨は3,000元を下回ってはならず、実用新案権又は意匠件一件あたりの報奨は1,000元を下回ってはならない。
発明者または考案者の提案が所属会社に採用されたことにより完成された発明創造については、特許権が付与された会社は、より多く報奨を支給しなければならない。

●特許法実施細則第78条
特許権が付与された会社は、発明者又は考案者と特許法第16条に規定する奨励、報酬の方式と金額について約定しなかった場合、特許権の有効期限内において、特許権が実施された後、毎年、同特許または実用新案権の実施により得られた営業利益の中から2%を下回らない額、若しくは、意匠権の実施により得られた営業利益の中から0.2%を下回らない額を、報酬として発明者または考案者に与え、或いは、上述の比率を参照して、一括して発明者または考案者に報酬を与えなければならない。特許権が付与された会社が、他人にその特許の実施を許諾した場合、受け取った使用料の10%を下回らない額を報酬として発明者または考案者に与えなければならない。

●科学技術成果実用化促進法第29条
法人は職務技術成果の使用、譲渡により得た利益から、職務技術成果を完成させた個人に報奨金又は報酬を与えなければならない
職務科学技術成果を他人に譲渡する際に、譲渡により得た利益の20%を下回らない部分を、重要な貢献をした者に与える。
科学技術成果を実施した場合、3年から5年間続けて、実施により増加した利益の5%を下回らない部分を、重要な貢献をした者に与える(第30条)。

以上

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