第87回コラム 「ドワンゴとFC2の知財高裁大合議判決」

 今回は、東京メトロ銀座線「浅草駅」より徒歩10分の所に鎮座する、今戸神社(台東区今戸1丁目5-22)をご紹介します。後冷泉天皇康平6年(1063年)、京都の石清水八幡を勧請し、今戸八幡を創建。1937年7月に、白山神社を合祀、今戸神社と改称。應神天皇の御神徳は武運長久と慈愛をこめて子を育てる大愛を本願としているとのこと(今戸神社HPより)。

【鳥居】
【神額】
【社殿】
【神輿】(筆者撮影)

 第75回コラムにて紹介した(株)ドワンゴとFC2.INCとの特許権侵害訴訟の控訴審(令和4年(ネ)第10046号)の知財高裁大合議判決が、2023年5月26日に出されました。
 本控訴審は、第三者意見募集(特許法105条の2の11)が初めて実施され、耳目を集めました。
 筆者は、第75回コラムにおいて、地裁判決に対し、「この判決が確定し、特許発明の一部の処理を外国に設置したサーバで行うことにより、特権侵害を回避できるとすると、容易に回避でき、特許権者を適切に保護できないと思います。控訴審において、判決が逆転されることを願う次第です。
 控訴されず、判決が確定した場合、一部が外国に設置されたサーバで行われる場合であっても、サービスが日本国内で提供される場合、日本国内での実施と見做されるような特許法の改正が必要と思います。」と憂えていました。

 最大の争点は、下図1に示すように、サービスを提供するサーバが外国に存在し、日本国内に存在するユーザ端末のみでは、特許に係る発明の全ての構成要件を充足しない場合、日本国内で「生産」したものに該当するか否かでした。

 この点、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保護するため、「当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、以下の(1)~(4)を満たす場合には、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。」と規範を示した上で、本件事案に当てはめ、特許権侵害であると判示しました。
(1)当該行為の具体的態様
(2)当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、
(3)当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、
(4)その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるとき
 今後、侵害判断においては、この考え方が基本原則になることが想定されます。
 筆者の憂いが杞憂に終わり何よりです。

【参考】
(定義)
第二条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあっては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
(特許発明の技術的範囲)
第七十条 特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
2 前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。
(差止請求権)
第百条 特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
(第三者の意見)
第百五条の二の十一 民事訴訟法第六条第一項各号に定める裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟の第一審において、当事者の申立てにより、必要があると認めるときは、他の当事者の意見を聴いて、広く一般に対し、当該事件に関するこの法律の適用その他の必要な事項について、相当の期間を定めて、意見を記載した書面の提出を求めることができる。

以上

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