先使用権について
今回は「先使用権」について、少し触れてみたいと思います。
弊社で、電子公証サービスを知財分野向けに営業販売を開始したのが、2007年6月からです。
前年の6月に、特許庁が
先使用権制度ガイドライン
(「先使用権制度の円滑な活用に向けて ―戦略的なノウハウ管理のために―」)
を発表し、これを受けて弊社でも「先使用権」をキーワードに営業を開始しました。
ところが、企業の知財担当者様からは、よく、「先使用権は使いにくいんだよ。」と言われました。
この「先使用権」って、いったい何でしょうか。
特許庁のホームページによると、
「先使用権は、他者がした特許出願の時点で、
その特許出願に係る発明の実施である事業や
その事業の準備をしていた者に認められる権利です。」
とあります。
少し砕けた言い方をすると、先に発明した人が、その発明で事業を行っていたところ、
後から同じ発明をした人に特許権を取られたとしても、
そのまま特許料を支払うこともなく事業を継続できる権利が先使用権
ということになるかと思います。
特許権は、
・特許庁に特許として認められて登録できれば、主張できます。
・他者が特許を侵害していれば、裁判に訴えることもできます。
先使用権は、
・特許庁で認めてもらったり、登録できたりするようなものではありません。
・他者が 「特許権を持っていた時に初めて、事業を守るために先使用権を主張する」 という使い方しかできません。
「先使用を主張」するためには、
「相手の特許よりも先に発明して事業で使っていた(あるいは事業の準備をしていた)」ことを証明しなければならず、
そのためには、「証拠が必要」になります。
事業を開始する段階で、将来、他社が取るであろう特許が想定できれば、
それに合わせて証拠を残しておくこともできます。
しかし、そんなことはほぼ不可能です。
仮に、想定に合わせて証拠を残したとしても、想定通りの特許が出てくることはなく、
残した証拠はほぼ無駄になるということになるのではないでしょうか。。
そうして、結局、先使用権は使いにくいという話になっていたのだと思います。
特許庁では、
2006年6月の先使用権制度ガイドライン
(「先使用権制度の円滑な活用に向けて ―戦略的なノウハウ管理のために―」)
を皮切りに、民間に対し先使用権制度の活用を促す施策を続けてこられています。
今では、先使用権制度の専用ページも設けられて、多くの資料が掲載されています。
企業の知財担当者様も、先使用権を有効に活用しようとお考えになるようになってきたのではないかと思います。
先使用権制度ガイドラインに証拠を残す方法として、
「民間の電子署名やタイムスタンプサービスを利用する方法」
が紹介されました。
これをきっかけに、証拠を電子的に残す方法も一般的になってきました。
物や書面で証拠を残していた時に比べ、格段に多くの証拠が残せるようになりました。
想定外の特許と出くわしたとしても、
多くの証拠の中から、先使用権を主張できる証拠を選択できるようになったのです。
こうした事から今では、企業の知財担当者様から、「先使用権は使いにくい」 という発言を聞くことも
少なくなりました。