第51回 「令和元年改正意匠法について(建築物・内装編)」

今月は隅田川の川岸に鎮座する牛島神社(墨田区向島1-4-5)を紹介します。牛島神社は、江戸時代は江戸城の鬼門*1守護の社として将軍家の崇敬があつかったとのこと。関東大震災で社殿等が炎上し、次いで隅田公園ができたため、現在の地(旧水戸邸跡)に移転したとのことです。当神社の撫牛*2は心も治るというご利益があると信じられています。

【牛島神社正面】 【神額】 【石碑】 【撫牛*2】

*1:江戸城に対し北東(艮=うしとら:丑と寅の間)の方位、方角のこと。
*2:自分の病の部分を撫で、牛の同じところを撫でると病がなおるという風習。

今回は、本年4月から施行されている令和元年改正意匠法の活用法について考えてみました。今回の改正によって、新たに建築物の意匠、内装の意匠が登録対象になりました。今回は、内装(インテリア)の意匠にスポットライトを当てたいと思います。

従来、内装は意匠登録対象外であったため、気にしていない人(事業者)が多いと思われます。
例えば、建築デザイン事務所(デザイナー)は、建屋外観の意匠は気にしていたかもしれませんが、家屋の内装、ショールーム、店舗の内装、エントランスの内装等については無関心であったと思われます。ましてや、内装デザイン事務所(デザイナー)にとっては全く無縁であったと思います。

しかし、今後は無縁ではいられません。権利侵害のリスクを回避しなければなりません。言わずもがなですが、差止になった場合、既に完成済みの家屋を改修し、高額の損害賠償をしなければならないことが想定されます。
また、自社の強みとなる優れたデザインを模倣され、価格競争に陥ることが想定されます。

しかし、「先んずれば人を制す」の諺もあるように、上手く活用すれば、悲観的になることはありません。そこで、今回は意匠権に縁遠かった内装デザイン事業者向けの意匠戦略を紹介します。

まず、基本のおさらいです。
意匠権者の権利:
差止請求権(意匠法第37条第1項)。
損害賠償請求権(民法709条)
信用回復措置請求(準特106条)

存続期間:意匠登録出願の日から二十五年(意匠法第21条第1項)

内装保護の根拠は、新たに設けられた下記条文です。
意匠法第八条の二
店舗、事務所その他の施設*3の内部の設備及び装飾(以下「内装」という。)を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠は、内装全体として統一的な美感を起こさせるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる。
*3「施設」には、客船、鉄道車両、航空機などの動産のほか、ホテルなどの不動産などを幅広く含む。

●内装の意匠の要件
(1)店舗、事務所その他の施設の内部であること
① 店舗、事務所その他の施設に該当すること
その他の施設とは、例えば、宿泊施設、医療施設、教育施設、興行場、住宅など、産業上のあらゆる施設が広く含まれる
② 内部に該当すること
人が一定時間を過ごすためのものである場合は、「店舗、事務所、その他の施設」に該当する。
(2)複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること
① 意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること
② 複数の物品等から構成されるものであること
複数の物品の例
・机、椅子、ベッドなどの家具類
・陳列棚などの什器類 (意匠法上の物品と認められる販売商品等が含まれていても可)
・フロアスタンド、電気スタンドなど
・内装の意匠を構成する建築物に備え付けられたモニターに表示される画像や、同様に備え付けられたプロジェクターから当該建築物の壁面に投影される画像

意匠法上の意匠に該当しないもの (ただし、以下の例に該当するものであっても、建築物又は土地に継続的に固定するなど、位置を変更しないものであり、建築物に付随する範囲のものは建築物の意匠の一部を構成する。)
・人間、犬、猫、観賞魚などの動物
・植物(ただし、造花は意匠法上の物品の意匠に該当する。)
・蒸気、煙、砂塵、火炎、水(ただし、保形性のある容器に入ったものは除く)などの不定形のもの
・香りや音など、視覚以外で内装空間を演出するもの
・自然の地形そのもの

(3)内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること
例1:「オフィスの執務室の内装、学校用教室の内装」
例2:「ホテル客室の内装、兼、病室の内装」
<内装全体として統一的な美感を起こさせるものの例>
① 構成物等に共通の形状等の処理がされているもの
② 構成物等が全体として一つのまとまった形状又は模様を表しているもの
③ 構成物等に観念上の共通性があるもの
④ 構成物等を統一的な秩序に基づいて配置したもの
⑤ 内装の意匠全体が一つの意匠としての統一的な創作思想に基づき創作されており、全体の形状等が視覚的に一つのまとまりある美感を起こさせるもの

【例】

(出所:意匠審査基準)

【その他の例】
■商業・オフィス空間に関するものの例
レストランの内装、カフェの内装、オフィスの執務室の内装、食料品店の内装、 ドラッグストアの内装、ホームセンターの内装、衣料品店の内装、靴屋の内装、 宝飾品店の内装、楽器店の内装、書店の内装、自動車ショールームの内装、 理美容室の内装、クリーニング店用内装、旅行代理店の内装、不動産屋の内装、 金融機関の内装、映画館の客席用内装、ゲームセンターの内装、ボーリング場の内装、 スポーツジムのトレーニングルーム用内装、ホテルの客室の内装、旅館の浴場の内装…など
■住空間に関するものの例
住宅用リビングの内装、住宅用キッチンの内装、住宅用寝室の内装、 住宅 用バスルームの内装、 住宅用トイレの内装…など
■教育・医療空間に関するものの例
学校用教室の内装、学習塾用自習室の内装、 診療室の内装、手術室の内装、病室の内装…など
■交通関係空間に関するものの例
空港ターミナルロビーの内装、航空機用客室の内装、 地下鉄用プラットフ ォームの内装、観光列車用内装、バスターミナルロビーの内装、高速バス用内装、 客船ターミナルロビーの内装、客船用客室の内装、…など
意匠登録要件
(1)工業上利用することができる意匠であること
(2)新規性を有すること
(3)創作非容易性を有すること(容易に創作をすることができたものではないこと)
(4)先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠ではないこと

【非類似例】

(出所:出所:第Ⅳ部 第4章 内装の意匠 相違点を筆者において追記)
【類似例】

(出所:第Ⅳ部 第4章 内装の意匠 相違点を筆者において追記)

【創造性を有さない例】
●単なる組み合わせの例

(出所:第Ⅳ部 第4章 内装の意匠 相違点を筆者において追記)

●単なる削除の例

 

(出所:第Ⅳ部 第4章 内装の意匠 相違点を筆者において追記)

★内装デザイン会社等における新意匠制度を考慮した今後の戦略
特効薬は無く、基本活動を地道に遂行する必要があると考えます。すなわち、他人の権利を踏まないこと、及び自己事業の強みになる権利を確保することです。具体的には、以下の通りです。
●自己防衛として
(a) 登録意匠の調査  他人の権利を踏まないよう、内装デザインの発表・提案等の前に他人の登録意匠を調査する必要があります。調査はJ-Plat-Patにおいて無料にて可能です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/(b) 提案の自由度を確保するため、創作した内装は公表し(公表日を残す)、公知意匠とする。新規性喪失の例外期間内に事業の強みになると判断した場合、意匠登録出願(新喪例申請)を行う。
公表は、アクセス制限が無いWebsiteが適していると思います。時間的に早期に公表でき、かつ公表日を立証しやすいためです。(c) 事業の強みになる意匠は、予め意匠登録出願する(一件あたり16000円)
(d) 公表+意匠出願(出願しても意匠登録されるとは限らないので公表を併用)

以上

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