第39回 「取扱説明書の保護を考える」その1

今月は真徳稲荷神社を紹介します。この神社は毎月末10数名の有志で知財関連判例の勉強会を開いている神田公園区民館の近くにあります。創建年代は不明ですが、神田明神の鎮座と同時期に京都伏見稲荷大明神の御分霊を勧請したものと伝えられています。

今回と次回は、取扱説明書(以下「取説」という。)の保護について考えたいと思います。
取説の作成に当たっては、誤使用が無いように、危険が及ばないようにと様々なケースを想定して文章を書き、イラストや写真を駆使して創り上げる割には、知的財産として保護されないと感じています。
一般的に、取説は文芸における著作物として著作権法によって保護されることは周知です。
取説に多用される表現は、概略、文章、表、写真、又は、イラスト(図形)に大別されますので、まず、文章及び表について、大阪地判平成23年12月15日平成22年(ワ)11439の判決を事例に裁判所の考え方を紹介します。

本事件は、逆浸透膜フィルターを4段階にすることで有害物質を99%以上除去する浄水器の取説に関する争いです。

出所::ニューメディカ・テック(株)HP

(1)取説は著作物であるか?
ア 全体としての著作物性
結論からいうと、原則、取説全体は著作物ではないとうことです。
原告は、個々の表現において,インパクトのある表現,わかりやすい表現,読み手の注意を惹く表現が選択されているとして取説全体が著作物性を有すると主張しました。
しかし判決は、「原告各取説に記載されている内容は,逆浸透膜浄水器の説明,各部の名称,取説の説明,安全上の注意,設置方法,使用方法,メンテナンス,トラブル対処法,保証の範囲外となる場合についての説明である。上記各事項は客観的事実に係るものである上,原告各取説においては,これらの客観的事実について,箇条書きあるいは短い文章により,正確を期した説明がされている。そのため,その表現は,必然的にありふれたものとならざるを得ない」と認定の上、「原告は,これを超える表現上の特徴が存在すること,それが創作的表現であることについて,具体的に主張しない。」として、著作物ではないと判断しました。
この論理からすると、取説における文章表現は、その性格上、原則、著作物ではないということになります。しかし、例外的に、一般的表現を超える創作的表現であれば、著作物であると認定される余地があるということですが、筆者においては、現在のところ該当しそうな事例が想定できません。
イ 各頁の著作物性
①取説1-2 2頁目
大きく記載すること(上段),ダイヤグラムの使用(中段),具体的適用例の列挙(後段)は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
②取説1-2 4頁目
図を並べて記載すること,説明に不要な部材の省略,重要部材の部分拡大,記号の使用,図面と同じ頁における部材名の記載は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
③取説1-2 5頁目
枠囲い,マーク,大きな文字等の使用や,「警告」という見出しの掲載は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
④取説1-2 6頁目
「必ずお守りください。」,「警告」,「厳守」,「禁止」といった見出しの掲載,大きな文字,枠囲い,マーク等の使用は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
⑤取説1-2 7頁目
「注意」,「厳守」,「禁止,」といった見出しの掲載,マーク,大きな文字,枠囲い,太字体,下線等の使用は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
⑥取説1-2 8頁目
イラスト図,矢印,マーク等の使用,「注意」,「禁止」といった見出しの掲載は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
⑦取説1-2 11頁目
表形式の採用は,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
⑧取説1-2 12頁目
枠囲い,マークの使用,「注意」という見出しの掲載,書体の変更や文字を大きくするといった手法は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
⑨取説1-2 9頁目
必要部分のみを選択した図面の掲載,矢印,マーク,大きな文字等の使用,「厳守」,「必ず実行して下さい」といった見出しは,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
⑩取説1-2 10頁目
マークの使用,「注意」,「禁止」といった見出しの掲載,四角線で囲む,イラストの掲載といった手法は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
⑪取説2 1頁目
大きな文字の使用,製品写真の掲載は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。 また,取説であること,製品の種類,製品名,型番,ロゴ等の記載については,表現上の創意工夫を述べるものではなく,失当である。
⑫取説2 4頁目
図面を並べて掲載したり,説明に重要な部材の選定や不要な部材の省略,記号の使用,図面と同じ頁で部材名を記載するといった手法は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
⑬取説2 8頁目
必要部分のみ選択した図面の掲載,矢印,マーク,枠囲い等の使用,「注意」,「禁止」といった見出しの掲載は,いずれも,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
⑭取説2 11頁目
フロー図の使用は,取説において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
⑮まとめ
以上のように、判決文から抜粋して紹介しましたが、取説における文章及び表による説明の表現は、ことごとく創作性が否定され、取り付く島もなく著作物性が否定されています。

(2)取説は著作物であるか?
結論からいうと、原則、取説は編集著作物ではないとうことです。
編集著作物とは,「編集物で,素材の選択又は配列によって創作性を有するもの」です(著作権法12条1項)。
ア 各頁の著作物性
本件のような製品の取説においては,その性質上,次の①~③のような内容や表記方法が要求され,かつ,広く採用されていると考えられる。したがって,製品の取説に係る編集著作物性を判断するにあたっては,これらの内容や表記方法は,原則としてありふれた表記であるということができる。
①製品の概要(機能,構造,部品やその名称),取扱方法,発生しうるトラブルやその対処方法,注意ないし禁止事項などを,文章や図面・イラストによって説明する。
②説明内容を示すタイトルを付けたり,説明内容の重要度に応じて,文字の大きさや太さに変化を付ける,強調のための文字飾りを付す,注意を促すマークを付すなどする。
③説明内容を理解しやすくするため,説明文の近くに,製品を簡単にデフォルメしたイラストや,製品そのものの写真を掲載する。
裁判所は、上記原則論を述べた上で、原告の編集著作物であるとの主張を排除しています。

(3)まとめ
以上から、取説における文章又は表による説明については、保護を受けられないことを前提として対処すべきと考えます。逆に考えれば、取説における文章又は表の模倣は、許される範囲であるということも言えます。

次回は、取説における、イラスト、写真について紹介致します。

追記:本事件に関する原告と被告間には、上記事件の他、商標権侵害差止等請求事件(平成22年(ワ)11862)、及び、特許権侵害差止等請求事件(平成22年(ワ)11353)が提起され、特許事件は非侵害、商標事件は侵害が判決された。

以上