第38回 「山口大学の知財活動」

今夏、石川県能登半島にある七尾市を何らの事前調査もせずに訪問しました。早朝、開放感のある七尾駅前を散歩していると、一本杉通りなる道路標識が目に付いたので進んでいったところ、昭和初期を思わせる古い町並みが残っており、急に時間の流れが遅くなることが感じられ、嬉しくなりました。懐かしの昭和初期をご堪能下さい。

★まえがき
先日、大学知財教育において、最先端を走っている山口大学の元締めをされている同大知的財産センター長の佐田洋一郎氏の講演を拝聴する機会があったので、その概要を紹介します。

★なぜ大学が知財教育に取り組むのか
国際経営開発研究所の発表によれば、1980年代我が国の国際競争力は世界一であったが、1990年代初頭から下降を初め、2002年には30位まで下降した後、20位台で低迷しており、その要因として以下の3点が揚げられています。
①長期的なイノベーションの施策がない。
②大学教育が競争力向上に寄与していない。
③起業家精神の欠如。
(筆者感想:現在の政府重点課題と一致しています。)
②の指摘に基づいて、大学における知財教育の充実が叫ばれていると言っても過言ではありませんが、大学における知的財産教育は、一部の大学の理工系学部を初めとして緒に就いたばかりであり、文系学部では寂しい限りです。
しかし、山口大学は全学部で知財授業を必須とするなど先進的な取り組みをしており、全国の大学から注目を浴びています。

★山口大学の取り組み
本学の知財基本ポリシーは、本学発の知的財産が社会で広く活用されることを通じて大学の社会貢献を推進することを目的とします(大学等技術移転促進法等の制定や改訂により変更)。したがって、本学における研究成果を社会(企業)に使って貰う必要があります。

★大学が特許を取る理由
企業は、自社のみが使用できるのであれば、技術移転の魅力を感じ、社内了解も得られやすいです(イラスト1参照)。また、企業では、学会論文よりも特許情報に多く接しているため、特許出願は大学の研究成果をPRするためには有効であると考えます。そのため、特許出願をし、特許権を取得しています。

(出所:配付資料を基に筆者作図)

★大学で生まれた職務発明の定義
従来、職務発明の定義が曖昧であったため、教授の個人所有とされていましたが、職務発明を「公的に支給された研究経費や大学の施設を利用して行う研究等によって職員等が創作した知的財産」と定義することによって、大学が権利主体であることを明確にしました。

★大学における研究の現状
一部のブランド大学を除いては、公的資金に基づく研究資金が少なく、外部資金(企業からの共同研究費)を獲得しなければ研究できない状況にあると思われます。その意味で研究成果を特許権化し、技術移転することにより、研究資金を獲得することは有効であると考えます。
(筆者注:良い研究者を見つければ、良い投資かも)

★山口大学における知財教育の特徴
☆全学部で知財教育必須化
工学部・経済学部・医学部等ありますが、下図に示すように全ての学部が社会・産業界において知財に関連するとの考えの下、2013年度から全ての学部において知財教育を必須化しました。
学部により若干の相違はありますが、カリキュラムには、知的財産の全体像、著作権、研究者の知財マナー、産業財産権の基礎、デザインの保護、プログラムの保護、知財情報の解析・活用、企業知財戦略を含めており、社会人として必要な知財知識が得られるようになっています。

(出所:配付資料を基に筆者作図)
☆教本の自作(市販中)
◎知的財産教本
◎これからの知財入門
◎CD付き契約マニュアル
☆独自の特許情報検索システム構築
24時間フリーアクセス
☆知財インストラクター制度
特許情報検索インストラクター、特許マップ作成インストラクター、特許図面イラストレータを試験により認定し、学内の業務において活躍の場を提供しています。
☆研究ノート作成
コクヨと共同研究開発し、全研究者へ配布。大学生協を通じて全大学にて販売中です。

(筆者感想:山口大学の取り組みは、学生の就職にも有利に働くであろうし、地方再生の一助になると思われる。)

以上

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