第34回 「職務発明制度改正」その4 特許法第35条第5項の解説

今回は、第19回にて紹介した新坂と第32回に紹介した淡路坂との間にある幽霊坂を紹介します。旧日立の本社ビル(現ソラシティ)があった敷地の西側に位置し、登り方向の一方通行の小径です。幽霊坂という名称の坂は、東京23区内に14もあり、それらは、人通りが少なく、鬱蒼とした樹木により、日中でも薄暗かったために幽霊が出そうだということで名付けられたようです。現在はその面影は無く、樹木に替わってビルが林立し、強いビル風が吹く坂です。

今回は、前回に続き特許法第35条第5項について解説致します。
1.金銭以外の「相当の利益」を付与することが出来ます。
経済的価値を有すると評価できるものである必要があり、経済的価値を有すると評価できないもの(例えば、表彰状)は含まれません。
従業者等が職務発明をしたことを理由として付与することが必要です。
換言すれば、金銭以外の相当の利益を従業者等に与える場合には、金銭以外の相当の利益として具体的に何が従業者等に与えられることとなるのか、従業者等に理解される程度に示す必要があります。したがって、使用者等は、協議、開示、意見の聴取といった手続を行うに当たっては、金銭以外の相当の利益として与えられるものを従業者等に理解される程度に具体的に示す必要があります。
<金銭以外の「相当の利益」の具体例>
(一) 使用者等負担による留学の機会の付与
(二) ストックオプションの付与
(三) 金銭的処遇の向上を伴う昇進又は昇格
(四) 法令及び就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与
(五) 職務発明に係る特許権についての専用実施権の設定又は通常実施権の許諾
2.基準を改定する場合の手続
従前の基準を改定する場合の手続き <指針案第三 二>
【例】
改定前に使用者等に帰属した職務発明と改定後の基準の適用関係
実質的に改定される部分及び改定により影響が生ずる部分について、使用者等と従業者等との間で協議を行うことが必要です。
【具体例(指針案第三 二)】
<改定後の基準の適用基準>
従前 自動承継の職務発明規定あり
原則:職務発明に係る権利が使用者等に帰属した時点で相当の利益の請求権が当該職務発明をした従業者等に発生するため、その時点以後に改定された基準は、改定前に使用者等に帰属した職務発明について、原則として適用されません。
例外1:ただし、使用者等と従業者等との間で、改定された基準を改定前に使用者等に帰属した職務発明に適用して相当の利益を与えることについて、別途個別に合意している場合には、改定後の基準を実質的に適用することは可能であると考えられます。
例外2:改定後の基準を改定前に使用者等に帰属した職務発明について適用することが従業者にとって不利益とならない場合は、改定前に帰属した職務発明に係る相当の利益について、改定後の基準を適用することは許容されるものと考えられます。
3.新入社員・派遣労働者に対する手続
新入社員等に対しては、どのような手続を行うべきか。<指針案第三三>
【例】
新入社員に対して、話合いを行うことなく策定済みの基準を適用する場合には、当該新入社員との関係では協議が行われていないと評価されます。
【具体例(指針案第三三)】
<新入社員との協議>
新入社員(新卒入社+中途入社)との間で使用者等が当該基準に関する話合いを行った場合には、不合理性の判断に係る新入社員との協議の状況については、不合理性を否定する方向に働きます。また、その話合いの結果、使用者等と新入社員との間で、既に策定されている基準を適用して相当の利益の内容を決定することについて合意に至った場合には、不合理性の判断に係る協議の状況については、不合理性をより強く否定する方向に働きます。なお、従業者との協議を通じて策定した基準が社内で既に運用されている場合、当該基準をそのまま適用することを前提に使用者が新入社員に対して説明を行うとともに、新入社員から質問があれば回答するという方法も、新入社員との協議の状況について不合理性が否定される方向に働きます。
<派遣労働者>
派遣労働者については、職務発明の取扱いを明確化する観点から、派遣元企業、派遣先企業、派遣労働者といった関係当事者間で職務発明の取扱いについて契約等の取決めを定めておくことが望ましいです。
4.退職者に対する手続
退職者に対しては、どのような手続を行うべきか。<指針案第三 四>
【具体例(指針案第三 四)】
<相当の利益の内容の決定方法>
退職者に対して相当の利益を退職後も与え続ける方法だけでなく、特許登録時や退職時に相当の利益を一括して与える方法も可能です。
<意見の聴取>
退職者に対する意見の聴取については、退職後だけではなく、退職時に行うことも可能である。
(例) 退職時の相当の利益の扱いについてあらかじめ基準に定められている場合、当該基準による相当の利益の内容の決定に際して、退職時に、従業者等から意見を聴取し、それを踏まえて相当の利益の内容を決定して与えた場合には、当該従業者等に対する意見の聴取はなされたと評価される。
5.企業規模に応じた手続き
企業規模に応じた方法で、協議、開示、意見の聴取といった手続をそれぞれ行うことができます。
【具体例(指針案第三 五)】
<総論>
従業者等の数が比較的少ない中小企業等においては、事務効率や費用等の観点から、その企業規模に応じた方法で、協議、開示、意見の聴取といった手続をそれぞれ行うことができます。これらの手続を書面や電子メールで行うことも可能です。
<協議>
従業者等の代表者を選任してその代表者と協議する方法ではなく、従業者等を集めて説明会を開催する方法でもよい。
<開示>
イントラネットではなく、従業者等の見やすい場所に書面で掲示する方法でもよい。
<意見の聴取>
発明者である従業者等から聴取した意見について審査を行う社内の異議申立制度が整備されていなくとも、発明者である従業者等から意見を聴取した結果、使用者等と当該従業者等との間で相当の利益の内容の決定について見解の相違が生じた場合、使用者等が個別に対応する方法でもよい。

以上

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