第33回 「職務発明制度改正」その3 特許法第35条第5項の第6項における指針(案)を踏まえた解説

本コラムが配信される頃には桜も散り始めていることと思います。
今回は、弊事務所から20メートルのところにある「連雀町」の看板をご紹介します。神田淡路町に事務所を開設以来、気になっていたのがこの看板です。私は約30年前、三鷹市下連雀にある事業所に勤務していた関係から、何か関係があるのかと思っていました。看板には、「連尺(れんじゃく)(物を背負うときに用いる荷縄、またはそれを取り付けた背負い子(しょいこ)をつくる職人が多く住んでいたことから、「連尺町(れんじゃくちょう)」の名前が付けられました。連尺町はやがて連雀町の字があてられ、広く用いられるようになりました。明暦(めいれき)三年(1657年)の大火「振袖(ふりそで)火事」の後、連雀町は延焼防止の火除地(ひよけち)として土地を召し上げられ、筋違橋の南方へ移転させられました。その際、連尺を商う二十五世帯は、遠く武蔵野(むさしの)に代地(だいち)を与えられ移住させられました。現在の三鷹(みたか)市上連雀・下連雀の地名はこの故事に由来します。」とあり、納得です。この地に事務所を開設したのも何らかの因縁を感じます。

今回は、改正された特許法第35条第5項について、現在公開されている第6項に規定された指針(案)に基づいて解説致します。なお、本指針は、本年4月1日の改正法施行後、経済産業省告示として公表される予定です。
1 改訂第5項の内容(アンダーライン部が改訂部分)
契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利益について定める場合には、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであつてはならない。
2 第5項の意義
(1)改訂主旨
第3項を、「相当の対価」から「相当の利益」に改訂したことに伴う用語の改訂です。しかし、本項は極めて重要な規定です。予め規則に定めた場合であっても、本項要件を満足しない場合、第7項によって相当の利益の内容が定められ、不足である場合には追加の利益の付与が必要になるからです。
すなわち、一企業内において自主的に解決出来なくなるからです。逆に言えば、本項要件を満たす場合、他に対しどんなに劣る相当の利益であっても、合法になります。しかし、相当の対価に関する規定は予め定める必要はなく、必要が生じた際に合理性を担保して行うことも可能ですが、リスク軽減の観点においては予め定めることをお薦めします。
(2)「その定めたところにより相当の利益を与えること」とは?
契約等により、職務発明に係る金銭その他の経済上の利益として与えられる相当の利益の内容が、決定されて与えられるまでの全過程(図1参照)を意味する。

(3)「相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況」とは?
基準を策定する場合において、その策定に関して、基準の適用対象となる職務発明をする従業者等又はその代表者と使用者等との間で行われる話合い(書面や電子メール等によるものを含む)全般を意味します。協議の合理性を担保するポイントを下記します。
【協議のポイント】
①協議の対象者:基準が適用される従業者等
②協議の方法
ア) 特定の方法をとらなければならないという制約はない。
イ) 従業者等が代表者を通じて話合いを行うことも協議と評価される。
ウ) 代表者がある従業者等を正当に代表しているとは、従業者等が代表者に対して使用者等との協議について委任していることをいう。
③協議の程度
ア) 話合いの結果、合意をすることまで求められてはいない。
イ) 協議の状況としては、実質的に協議を尽くすことが望ましい。
(4)「策定された当該基準の開示の状況」とは?
「開示」とは、策定された基準を当該基準が適用される従業者等に対して提示すること、すなわち、基準の適用対象となる職務発明をする従業者等がその基準を見ようと思えば見られる状態にすることを意味します。
【開示のポイント】
①開示の対象者:基準が適用される従業者等
②開示の方法
ア) 特定の方法をとらなければならないという制約はない。
イ) 従業者等が代表者を通じて話合いを行うことも協議と評価される。
・従業者等の見やすい場所に掲示する方法
・基準を記載した書面を従業者等に交付する方法(電子メールや社内報等による配信を含む。)
・従業者等が常時閲覧可能なイントラネットにおいて公開する方法
・インターネット上のウェブサイトにおいて公開する方法
・基準を記載した書面を、社内の特定部署に保管し、従業者等の求めに応じて開示する方法
③開示の程度
相当の利益の内容、付与条件その他相当の利益の内容を決定するための事項が具体的に開示されている必要がある。
(5)「相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況」とは?
「意見の聴取」とは、職務発明に係る相当の利益について 定めた契約、勤務規則その他の定めに基づいて、具体的に特定の職務発明に係る相当の利益の内容を決定する場合に、その決定に関して、当該職務発明をした従業者等から、意見(質問や不服等を含む。)を聴くことを意味する。
【意見の聴取のポイント】
①意見の聴取の対象者:基準が適用される従業者等
②開示の方法
ア) 特定の方法をとらなければならないという制約はない。
イ) 意見の聴取の時機は、以下のいずれであってもよい。
・一旦基準に基づき決定した相当の利益を従業者等に与えた後に、当該従業者等に対して意見を求め、又は意見表明の方法を伝えて、意見が表明されればそれを聴取する場合
・基準を記載した書面を従業者等に交付する方法(電子メールや社内報等による配信を含む。)
・同一の使用者等に係る複数の従業者等が共同発明をした場合における意見の聴取の状況は、当該共同発明をした従業者等ごとに不合理性の判断がなされる。
③意見の聴取の程度
ア) 従業者等からの意見に対して使用者等は真摯に対応する必要がある。
イ) 相当の利益の内容の決定について合意がなされることまで求められてはいない。

以上

次月は指針におけるその他について解説します。