第29回 「これで良いのか知財教育」

今回は、前回松尾神社に絡んで言及した神田青果市場をご紹介します。
現在は単に、石碑が残っているだけで当時の面影は全くありませんが、江戸・明治・大正を通じて巨大な青果市場があったとのことです。近くを流れる神田川や鎌倉堀を使って多くの青果が持ち込まれ、江戸随一の青果市場だったそうです。関東大震災によって全滅後復興した後、昭和9年に秋葉原西北(秋葉原駅近くの高層ビルが建っているところ)に移転しその後手狭になったため、平成2年に大田区に移転しました。神田に卸売市場があったんですね。

最近、日本弁理士会の知的財産支援活動で、児童発明くふう展の審査員と工業高等専門学校の知的財産授業の講師をしてきましたので、そのご紹介と、我が国における知財教育について考えたいと思います。
児童発明くふう展ですが、これは小学生及び中学生を対象にし、それぞれ小学生の部、及び、中学生の部に分けて審査しました。
まず驚かされたのが、小学生2年生がルート計算を使って行った発明です。小学生2年生でルート計算ができることに驚かされました。その他、お爺さん用の杖、お母さん用のまな板等々、子供目線ながら自分の周囲の人をよく観察しているなという印象を受けました。
次に高専での知財授業ですが、日本弁理士会は2013年に独立行政法人国立高専機構との間で「知的財産教育の充実及び知的財産の活用のための協力に関する協定」を締結し、2014年より同機構と連携し、高専における知財教育を本格的に開始しました。カリキュラムには初級、中級、上級とあり、今回は初級編を行いました。クイズ及び寸劇により、特許の対象、及び、新規性・進歩性等の特許要件の教授が主な内容でした。一時間目の授業がハードだったのか、知財授業が退屈だったのか居眠りする者もおり、また、あまり積極性が感じられなかったのですが、授業終了後、熱心な質問者もおり、一定の成果があったと思います。

2002年に当時の小泉首相が知財立国宣言をし、知的財産の創造・保護・活用、コンテンツを活かした文化創造国家づくり、及び、人材の育成と国民意識の向上、を目指して各種の施策が実行されてきました。その中でも、人材の育成と国民意識の向上は長い目でみれば重要であって、特に、将来を担う児童・生徒に対する学校における知財教育は極めて重要であると考えます。すなわち、知財立国を達成するには、幼い時期より独自性のある商品・サービスは財産であることを意識付けし、他人の権利を尊重し、自己の権利を守るとの意識を植え付けることが必要だと思います。

学校教育において、知財が盛り込まれたのは、平成15(2003)年からです。同年 4月からの学習指導要領において,工業高校では新科目「工業技術基礎」が設けられ,その中で「工業所有権を簡単に扱うこと」と示されています。また,商業高校においても財産権の 1つとして工業所有権が扱われることになりました。その成果の一つが、高校生、高等専門学校生及び大学生を対象とし、自ら考え出した発明・デザイン(意匠)の中から優秀な作品を選考・表彰するパテントコンテスト及びデザインパテントコンテストです。
http://www.inpit.go.jp/jinzai/contest/

しかし、知財教育活動がスタートして11年が経過した現時点において、全高専57校(国立51校、公立3校、私立3校)中、本年度弁理士会が知財授業を行うのは20校程度であり、全体の約3分の1です。知的財産、特に産業財産権に最も関係が深い高専において、約10年が経過してこの低調ぶりであり、高校、中学校、及び、小学校においては推して知るべしです。
この原因を考察してみると、実際に教育を行う各現場(学校)において、知財を知っている人材がいないのではないかと考えます。なぜなら、最初に紹介した発明くふう展では特定の学校の応募者が多く、知財授業を行う高専ではそれが継続開催さているからです。すなわち、核になる人材がいる学校では、その指導がある程度なされて成果が出ている結果であると考えられるからです。
そこで、知財立国のために、知財意識を更に向上させるは、①知財に詳しい現場教育者の育成、及び、②児童・生徒に対する専門家による直接指導が重要であると考えます。
①知財に詳しい現場教育者の育成については、教員等の教育担当者に集中的に知財の意義や内容について教授し、教育現場における理解者を増やすことが重要であると考えます。また、実際に授業を行う際のサポートをすることも必要ではないでしょうか。これらは、日本弁理士会の都道府県委員会が各都道府県の教育委員会等と連携を取って行うことが現実的であると考えます。
②児童・生徒に対する専門家による直接指導については、地域における弁理士が、ボランティア精神を発揮して、各学校に出向いて授業等を行うことが重要であると考えます。
いずれにせよ、諸施策をキチンと実行するためには、能力を持った人材が必須ですので、弁理士会としては人材育成に注力すべきであると考えます。

私も、今後も我が国の発展のため、このような知財普及活動に継続して係わって参る所存です。

以上

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