第21回 「秘密情報の保護についてⅡ」

早咲きの桜が咲き始めましたが、本コラムがお手元に届く頃には葉桜になっているものと思います。

今回は前回ご紹介した昌平橋と万世橋との間にある赤煉瓦作りの高架橋を利用したマチキュート神田万世橋をご紹介致します。ここは明治初期に「万世橋駅」が有ったところであり、その後「交通博物館」が開設されていましたが、2013年からショップと展望カフェとが併設された商業施設としてよみがえりました。高架橋上には、中央線の線路が設置され、オレンジ色のラインが入った電車が頻繁に行き来しています。外観は、優しさと力強さを感じさせる赤煉瓦のアーチが連続し、まさに明治時代の風情を感じさせます。しかし、内部は近代的に改装され、アンティーク風家具、伝統染め物等の小物店が入居しています。圧巻は、旧万世橋駅の開業時に作られたホーム部分に設けられたガラス張りのデッキです。このデッキは、中央線の上下線の間に設置され、カフェが営業していす。中央線の快速電車が真横を通過するなかで飲むコーヒーは鉄道ファンのみならず格別なものと思われます(夏はビヤガーデンになります)。皆さんも明治の雰囲気に浸りにおいで下さい。

さて今回も前回に引き続き営業秘密の保護について考えたいと思います。
既にご存じのことと思いますが、営業秘密として保護をうけるための3要件を確認したいと思います。
(1)秘密管理性:秘密管理性とは、秘密として管理されていること。企業等が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が従業員等に対して明確になっていることが要件となります。

(2)有用性:有用性とは、当該情報が、客観的にみて企業等の活動に有効であることです。したがって、不法行為等の情報は保護されません。しかし、失敗(実験)情報は保護対象です。
(3)非公知性:非公知性とは、その情報が一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要です。具体的には、当該情報が合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物に記載されていない等、保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態です。

営業秘密に関する裁判の中で最も争点になるのは秘密管理性です。秘密管理性が肯定された例を表1に記しましたが、近年はかなり緩やかになったように感じます。例えば、秘密表示やパスワードを設定していない場合であっても、従業員10名という事情を考慮して秘密管理性が肯定されています。しかし、この判決が今後の基準になるかというと、大いに疑問です。
この裁判においては、秘密管理性を認めてもらうため相当の労力を費やしていると思われます。したがって、確実に保護を受けられるようにすると共に、立証の容易化のため、最低限の秘密管理施策を企業規模等に応じて実行することが重要です。では、「秘密管理性」とはどの様な概念でしょうか?平成27年に改訂された経済産業省発行の「営業秘密管理指針」においては、「従業員がそれを一般的に、 かつ容易に認識できる程度のものである必要がある。」と定義されています、したがって、企業の規模、業態、従業員の 職務、情報の性質その他の事情に応じて秘密管理措置の内容・程度を定める必要があります。

これらを踏まえると、最低限でも、
(1)営業秘密の区分(?等の秘密表示)が必要と考えられます。現状をグラフ1に示しましたが、まだまだ改善の必要があります。

さらに従業員10名以上の企業では、
(2)パスワード・施錠等のアクセス制限及びその他の下記施策が必要であると考えます。
いずれにせよ、経費がかかると共に、業務上の煩雑さが増しますので、業務運営との関係で自社における施策を規定する必要があります。

【施策】
1 秘密表示管理
「秘」「極秘」「社外秘」等のレベル表示をする。もちろん1区分でもよい。
さらに他社情報と混同しないよう、出所を明示する。(例 作成・・・課)、
2 アクセス権限の設定
秘密情報毎にアクセス権利者を特定する。デジタルデータは、ID、パスワードの設定。
3 保管方法
施錠可能なキャビネットに保管し、退社時は施錠する。
廃棄時は焼却、シュレッダー、溶融等にて処分する。第三者に委託する場合、処分の証拠(写真)を提出させる。
4 秘密情報の取り扱いのルール化(社内規則設定)
秘密情報の管理方法、複製、バックアップ等をルール化(文書化)し、実行する。
5 アクセス状況をモニターする。
少なくとも重要な秘密情報に関するアクセス履歴を記録する。
6 従業者等に対する対処
入社時やプロジェクト開始時に、秘密保持誓約書を提出させる(下記「【入社時の誓約書(例)】」参照)。
7 退職者に対する対処
秘密保持誓約書を提出させる(下記「【【退職時の誓約書(例)】」参照)。
8 派遣者に対する対処
派遣元との間に秘密保持誓約書を締結させると共に派遣元との間に秘密 保持契約を締結する。
9 転職者に対する対処
前職で負っていた秘密保持義務や競業避止義務の内容を確認し、それらに違反しないように取り組む。
10 取引先に対する対処
秘密情報を開示する場合、秘密保持契約書を締結。
11 秘密保持規定を制定
従業者、会社の義務、責任を明確化する。
12 モニタリングする。
モニタリングによって、予兆を掴む。
13 内部監査する。
監査によって、秘密保持の意識付けをする。

以上

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