第118回コラム 「日用品の意匠権の権利行使は慎重に」
今回は、メトロ東京日比谷線「人形町駅」から徒歩約5分に鎮座する小網神社(コアミジンジャ)(中央区日本橋小網町16-23)をご紹介します。
同社は、文正元年(1466年)悪疫鎮静の神として創祀され、稲荷大神と辨財天が祀られています。
銭洗いの井で金銭を清め、財布などに収めておくと財運を授かるとのこと。




(筆者撮影)
第113回コラムにおいて触れた令和3年(ワ)第20229号の意匠権侵害差止等請求事件の控訴審判決(令和6年(ネ)第10086号)が出され、異なる判決になりましたので、両判決を対比しつつご紹介します。
本事件は、八幡化成株式会社(原告)の収納容器(商品名:バルコロール)に関する意匠権(第1472070号)を、株式会社大創産業(被告・ダイソー)が侵害したかどうかが争われた事件です。
地裁判決(令和6年10月30日)は、ダイソー品の意匠は類似するとして意匠権侵害を認定しましたが、知財高裁は一転、非類似であるとして侵害を否定しました。
意匠登録第1472070号に係る意匠は、下記対比図中の本件登録意匠の五面図を参照下さい。
ダイソー品の意匠は、下記対比図中のイ号意匠~ハ号意匠を参照下さい。

判決文を要約すると、下表の様になります。
| 対比項目 | 地裁判決(第一審) | 知財高裁判決(控訴審) |
|---|---|---|
| 基本的構成態様の評価 | 逆略楕円錐台の本体に、太い縄紐の把手を組み合わせた点を重視。共通性が高いと判断。 | 基本的構成は共通するが、それ自体は公知の形状の組み合わせに近いと慎重な評価。 |
| 要部(中心的な特徴) | 本体形状と縄紐把手の**「組み合わせ」**そのものが要部であるとした。 | 把手の存在感は認めるが、**「本体の具体的な細部形状」**こそが美感の差別化要因であるとした。 |
| 本体上縁の形状(湾曲) | 中央が下方に湾曲している点の差異は、「些細なもの」であり、全体の美感を左右しない。 | 湾曲の有無は、横から見た時のシルエットを大きく変えるため、「顕著な差異」である。 |
| 本体の寸法・比率 | 被告商品がやや縦長である点などは、共通する美感を覆すほどではない。 | 上下の寸法の比率の違いが、容器としての「安定感」や「スマートさ」の印象を別物にする。 |
| 需要者の視点 | 需要者は斜め上方から全体を視認するため、把手の特徴が強く印象に残る。 | 把手だけでなく、本体の縁のラインやプロポーションの変化にも注意が向く。 |
| 結論 | 類似 | 非類似 |
地裁判決が知財高裁判決において逆転したポイントは以下の2点です。
1.「要部」の絞り込み
地裁は「本体+縄紐」というセットを広く要部と捉えましたが、知財高裁は、縄紐把手というアイデア自体は他にも存在し得るため、本体の具体的なライン(上縁のカーブなど)の絶妙な違いが、意匠としての個性を決める重要な要素であると判断しました。
2.「差異」による美感の変化
地裁が「小さな違い」として切り捨てたポイントについて、知財高裁は「意匠全体から受ける商業的な印象(スタイリッシュさ、あるいは柔らかさなど)を決定づける違いである」と認定しました。
その結果、構成を文字にすれば似ているが、目で見た時の「美感」は異なるとしました。
この判決の相違は、意匠の類否判断の考え方に基づくものと思われます。
知財高裁は、意匠の類否判断に関し、下記基準を示しました。
「意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有しているところ(意匠法23条本文)、登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされている(同法24条2項)。この類否の判断は、登録意匠に係る物品の性質、用途、使用態様を考慮し、更には公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、当該意匠に係る物品の看者となる需要者の視覚を通じて最も注意を惹く部分(意匠の要部)を把握し、この部分を中心に、両意匠の構成を全体的に観察・対比して認定された共通点と差異点を総合して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かによって判断するのが相当である。」
本事件のように、多数の意匠が存在する日用品等に関しては、公知の意匠に対して新規な意匠部分を要部と認定される傾向にあります。
よって、日用品の意匠の権利を行使する場合、公知意匠を調査し、保護範囲を慎重に検討する必要があると考えます。


