第117回コラム 「模倣品被害を如何に最小限に抑える方策」

今回は、メトロ東京半蔵門線「水天宮前駅」から徒歩約8分に鎮座する佐賀稲荷神社(サガイナリジンジャ)(江東区佐賀2-4)をご紹介します。
同社は、寛永7(1630)年に佐賀町住民の厄除招福を願い建立されたとのこと。
明治以降、同地には米問屋が多かった名残(力石・天水桶)が見られます。

【鳥居】
【神額】
【力石】
【左狛犬】
【右狛犬】

(筆者撮影)

三重県桑名市や埼玉県所沢市の住宅で、氏名不詳の者と共謀の上、桑名市の男性が権利を有する骨盤矯正ベルトを指定商品として商標権を設定登録している商標と類似した商標を付した骨盤ベルトをそれぞれ1個ずつ送り、販売価格7,800円で販売し、商標権を侵害する行為とみなされる行為をした男(24歳)を、令和7年11月19日に逮捕した、とのニュースが流れました。

本件における商標権者は図1に示すように、2件の商標権を保有しています。

図形商標に係る登録第5489772号は2012年に登録されていますが、標準文字商標「FITKEEP」に係る登録第6742816号は、2023年に登録されました。

図形商標にも「FITKEEP」の文字が入っていますが、文字「FITKEEP」とは非類似とされる恐れがあるまめ、模倣被害を認識した後、文字商標を新たに出願したと思われます。

【図1】

商標「FITKEEP」の権利者は、図2に示すように整体師であって、自己の知見に基づいて骨盤矯正ベルトを開発し、別会社を設立して商標「FITKEEP」を付して販売していました。

【図2】

(出所:https://www.kotubankyouseig.com/kyosei_about.php)

商標「FITKEEP」の権利者は、模倣品対策に苦労していたようで、図3に示すように、Webサイトにおいて注意を促しています。

【図3】

(出所:https://www.kotubankyouseig.com/blog_select.php?id=322)

本ケースにおいて、商標権利者は、骨盤矯正ベルトに関して特許第5723114号を取得していました。

しかし、今回特許の話はでていないので、模倣品は下記特許請求の範囲(請求項1)の技術的範囲に属しなかったものと思われます。

【請求項1】

弾性を有する主ベルト用布地から構成され主として腸骨部分を覆うと共に一対の自由端部を備えた主ベルト片と、前記両自由端部に設けられて所定の位置で前記自由端部同士を係脱可能に位置決め固定する係合部と、前記主ベルト片の下方において前記主ベルト用布地よりも弱い弾性を有する大腿部用布地から構成される左右一対の大腿取付部とを備えたものであって、前記主ベルト片と前記大腿取付部は前方及び側方を上下連結片によって、後方を臀部覆い部によって連結されており、前記主ベルト片は、後部から側部にかけては、骨盤を締め付ける弾性を備えた素材により、側部から前部にかけては、鼠径部への圧迫を回避する柔らかい素材により構成されており、前記上下連結片は長さが可変とされており、前記主ベルト片の位置を適切なところに固定可能とされており、前記臀部覆い部は、左臀部、中央部および右臀部の三部分を備えていると共に、前記中央部は左右方向の弾性を備え、上下方向への弾性が規制された材質により構成され、前記左臀部および右臀部は上下方向の弾性を備えた材質により構成されている一方、前記両大腿取付部において、互いに隣接する中央部分は、弾性を有する大腿連結片によって連結されていることを特徴とする女性用骨盤矯正ベルト。

このようなケースではどのように模倣品対策をすべきか考えてみました。

模倣には、図4に示すように技術模倣と信用模倣の二種類あると思います。  

【図4】

技術模倣には、構造の模倣、製造方法の模倣、プログラムの模倣、リバースエンジニアリンクによる模倣、ノウハウ模倣、及び形態模倣も含みます。

図5に示すように、特許製品と同等の性能を有する、構造の模倣、リバースエンジニアリンクによる模倣、製造方法の模倣、又はプログラムの模倣は、特許権によって保護出来ると思います。

【図5】

しかし、性能を落とした模倣品は、特許権によって保護されない可能性があります。

外観形状が性能に影響する場合、意匠権が有効です。

信用模倣には、商標の模倣やブランド模倣が含まれます。

性能を落とした模倣品は、商標模倣やブランド模倣をするケースが多いです。需要者を正規商標品やブランド品と誤認させるためです。

ブランド品は、著名表示冒用行為規定(不競法2条1項2号)によって保護を受けられますが、著名姓が必要ですので、ハードルが高いです。

よって、通常は、商品名やサービス名、又は会社名の商標権を取得することをお薦めします。安価かつ容易に模倣被害を抑制できるからです。

ノウハウ模倣に関しては、ノウハウが営業秘密に該当する必要があります。

営業秘密に該当するための要件は以下の3点です。

  1. 秘密管理性(アクセス制限、パスワード管理、秘密保持契約等)
  2. 有用性(事業に資するもの:設計図、顧客リスト、購買情報等)
  3. 非公知性(公然と知られていないこと)

ここで重要なことは、何が営業秘密に該当するかを特定することです。

特に、ノウハウの場合、何がノウハウかを特定する必要があります。

例えば、製造方法においては、以下の項目が挙げられます。

  1. 材料配合比率(飲料や食品のレシピにおける原材料の割合。
  2. 公開されていない独自の調合方法
  3. 工程条件
  4. 化学反応における温度・圧力・時間の最適条件
  5. 半導体製造における特殊な焼成温度や雰囲気制御
  6. 特殊な加工技術
  7. 金属の熱処理方法や表面処理技術
  8. プラスチック成形における独自の冷却速度や金型設計
  9. 品質管理手法
  10. 不良率を下げるための検査工程や測定基準
  11. 製造ラインでの歩留まり改善ノウハウ
  12. 製造設備の調整方法
  13. 機械の設定値や調整手順
  14. 特定の製品に合わせた独自のメンテナンス方法
  15. スケールアップ技術
  16. 実験室レベルから工場生産レベルに移行する際の条件調整

これらの内容を具体的に特定して、秘密情報であることを明らかにする必要があります。

本件に関しは、刑事告発にする前に、フリーマーケットやECサイトに対し、商標権に基づく侵害通報を行っても良かったと思います。
商品流通の根源を絶つためです。

ECサイトは、知的財産権侵害通報サイトが充実し、私の経験では商標権侵害の場合は迅速に対応頂けるとの印象です。

主要なフリーマーケットにも、下記の通報サイトがあります。

 <メルカリ> 権利者保護プログラムについて

 <ラクマ>  楽天ラクマ 権利者保護プログラム

即効性が必要なので、刑事事件化よりも、これらのサイトで削除要請するのが適当と考えます。

そのたには、工業所有権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)が必要です。

工業所有権を持たずに不正競争防止法に基づいて請求する場合、そもそもその商品形態や名称等が著名性を有している必要があります。
また、著名であったとしても、著名性の立証が大変です。
よって、技術模倣又は信用模倣に迅速に対応するため、工業所有権を取得することをお薦め致します。