第105回コラム 「改めて感じた商標未出願の怖さ」

今回は、地下鉄日比谷線入谷駅北口3番出口より徒歩約7分にある酉の市で有名な鷲神社(おおとりじんじゃ)(台東区千束3丁目18番7号)をご紹介します。

鷲神社は、隣接する長国寺に祀られていた鷲宮に始まるといわれ、江戸時代中期から酉の市で知られ、明治初年の神仏分離に伴い、長国寺から独立し鷲神社となったとのこと。

(出所:ウィキペディア 鷲神社 (台東区) – Wikipedia

【正門】
【鳥居】
【社殿】
【巨大お多福】

(筆者撮影)

「月刊神戸っ子 KOBECCOとメルチュ(株式会社merchu)折田楓氏(Kobecco)の関係についての一部メディアにおける誤情報についての説明と、読者および関係者の皆さまへ重要なお知らせとお詫び」と題する記事が服部プロセス株式会社神戸っ子出版事業部のWebサイトに掲載されました。

タウン情報誌、月刊 神戸っ子KOBECCOは服部プロセス株式会社神戸っ子出版事業部が発行しています【図1】。

【図1】 月刊神戸っ子KOBECCO2024年12月号

出所:https://kobecco.hpg.co.jp/chronology/

服部プロセス株式会社は、兵庫県神戸市に所在する会社です。

月刊神戸っ子KOBECCOに関する歴史は下記の通りです。

1961年 3月創刊
2010年 株式会社神戸っ子出版
2017年8月 服部プロセス株式会社に吸収合併され、神戸っ子出版事業部が運営中

月刊神戸っ子KOBECCOは、毎月1日発行の月刊誌であり、【図2】に示すように、神戸市を中心とし、西は姫路市辺りまで、東は阪神間、南は淡路島のトピックを掲載し、定価500円/冊で提供されています。

【図2】
【図3】
(出所:https://kobecco.hpg.co.jp/)

また、Webサイトにおいて、【図3】のように、月刊誌の販売案内と共に商品、サービスの広告を提供しています。これらの広告は、対価を得て提供しているものと思われます。

なお、タウン情報誌とは、一つの都市、あるいは隣接する複数の都市からなる地域に重点を置いて、その地域に根ざした情報を扱う情報誌である。タウン誌、また新聞・フリーペーパー形態のものはタウン紙とも呼ばれる。
地方の中小出版社が発行することが多く、刊行物型のタウン誌では、雑誌・情報誌一般と同様、300-500円程度の価格に抑えるために広告記事(記事の形式を採った広告)と広告のページが多くを占める。

(出所:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%B3%E6%83%85%E5%A0%B1%E8%AA%8C

服部プロセス(株)は、下記(1)の商標権を保有しています。

(1)商標登録第1099169号

■商標

第9類  映写フィルム他

第16類 雑誌その他の印刷物 類似群コード26A01 26B01 26D01

一方、株式会社merchu(兵庫県西宮市)は、「Kobecco」に関し下記(2)及び(3)の商標権を保有しています。

(2)商標登録6422183号

■商標

第35類 広告業他

第41類 娯楽分野における情報の提供他

(3)商標登録第6802585号

■商標

 第35類 広告他

■問題点

服部プロセス(株)が発行している月刊神戸っ子KOBECCOは、雑誌その他の印刷物(第16類)に該当し、同社の(1)の商標権によって保護されていると考えます。

一方、Webサイト(URL:https://kobecco.hpg.co.jp/)において、

の基、提供している広告は第35類であり、同社(1)の商標権による保護は及びません。

また、「神戸っ子」のローマ字表記は「Kobekko」であるため、「KOBECCO」は(1)の商標権によって保護されていません。

一方、(株)merchuは、

の商標と指定役務「広告他」に係る商標権を保有しています。

服部プロセス(株)が使用している

は、外観が異なり、称呼が同一であって、観念は特に生じないと考えられることから、商標は類似であると考えます(商37条)。

よって、原則、服部プロセス(株)は(株)merchuの(3)商標登録第6802585号に係る商標権を侵害していると思われ、いつ係争になってもおかしくない状況であると思われます。

この場合、[A] 先使用権(商32条)、[B] 3年不使用取消審判(商50条)、[C] 無効審判(商46条)によって対抗することができます。

[A] 先使用権

先使用権は、登録商標に係る出願前から不正競争の目的なく使用した結果、その出願時に周知であることを要件としています。周知のレベルは、一地方(都道府県程度)と考えられています。

(3)商標登録第6802585号の出願日は令和5(2023)年7月21日であり、服部プロセス(株)による

の使用の方が早いと思われます。

そうすると、周知要件を満たすかどうかが問題になります。

月刊誌は神戸市を中心に長年頒布されていると思われるので、兵庫県の全域ではなく、原則、周知要件を満たさないと考えますが、事情によっては周知要件を満たす場合があると考えます。

しかし、Webサイトの広告事業が周知要件を満たすか否かは、アクセス数等のデータを検討しなければなりませんが、厳しいと思われます。

[B] 3年不使用取消審判

3年不使用取消審判は、3年間継続して不使用である場合、将来に向かって権利が消滅する制度です。

(株)merchuは、下図のようにネット販売を行っていますが、同社のWebサイトにおけるDigital Adsにおいて、デジタル(Web/SNS)広告運用 – X/Instagram認定代理店であることを表明しています。しかし、この広告事業において、

を使用しているか不明です。

(出所:https://merchu.thebase.in/)
(出所:https://merchu-inc.com/)

 しかし、商標登録第6802585号の登録日は、令和6(2024)年5月9日ですので、3年不使用取消審判を使うことはできません。

[C] 無効審判

無効審判は、商標権を出願時に遡って無効とする制度であって、商4条1項に該当する場合、利害関係人が請求できる制度です。

本件の場合、4条1項10号、又は15号の適用が想定されます。

4条1項10号は、周知が要件になっています。本号の周知は、先使用権よりも広範であると認識されていますので、本号での無効は先使用権よりも難しいと思われます。

4条1項15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」が要件とされ、さらにハードルが高いと思います。


服部プロセス(株)がとるべき対応

服部プロセス(株)は、自社の業容が変わった時点において、既商標権の指定商品・役務によって保護されているか確認し、保護されていない場合、新出願等の対応をすることが最も好ましいと対応であると思います。

また、「KOBECCO」は、神戸っ子のローマ字表記「Kobekko」とは異なるので、商標登録すべきであったと思います。

皆様におかれましても、現在及び近い将来の自社業容が、現在の登録商標によって保護されているか再度確認してみては如何でしょうか。

以上