第68回コラム 「あのZOOMが商標権侵害で訴えられた」

 今回は、JR総武線浅草橋駅近くに鎮座する甚内神社(東京都台東区浅草橋3-11-5)をご紹介します。甚内(高坂甚内)は、江戸初期の大盗賊であったことから最終的には処刑されますが、処刑される間際に「もし瘧(マラリア)でなければ捕らえられることもなかっただろう。私は魂魄をこの世に留め、瘧に悩む者が祈願すれば平癒させよう」と言って果てたとされる。そこで、江戸時代初期に、処刑場があった地に祠を建てて、甚内を祀ったのが始まりとのこと(日本伝承大鑑より)。

【鳥居】
【神額】
【社殿】
【社殿内部】
(筆者撮影)

 9月17日、次のニュースが流れました。
 音楽用電子機器を販売する株式会社ズーム(以下「ズーム社」という。下記ズーム社概要参照)は、米Zoom Video Communications(以下「ZVC社」という。下記ZVC社概要参照)のWeb会議システム「Zoom」が同社の登録商標を侵害しているとして、日本でZoomを提供しているNECの子会社のNECネッツエスアイに対して侵害行為の差し止めを求める訴訟を、東京地方裁判所に提起したと発表しました。損害賠償は請求していません。」
 訴訟に至った経緯をズーム社は以下のように説明しています。
 2019年10月ごろから電話・メール窓口にWeb会議システムについての問い合わせが殺到するようになった他、2020年6月のZVC社の決算発表の影響で同社の株価が2日連続でストップ高を記録し、その後急落し、「業務上の支障にとどまらず、第三者の投資家に損害を与える結果となり、現在も日々、支障がある。」
 そこで、2020年よりZVC社日本法人と解決方法を模索したが、同社から誠意ある回答/対応が得られなかったため、今回の提訴に至った。
(出所:2021年9月17日付株式会社ズーム「訴訟提起関するお知らせ」より。
https://data.swcms.net/file/zoom/ja/news/auto_20210915498972/pdfFile.pdf

 そこで、このような事件に巻き込まれないようにするための対策を考えてみました。皆様のお役に立てることができれば幸いです。
 まず、ズーム社の登録商標を調査しました。
 下記表1に示すように、11件の登録商標がヒットしました。
 本訴訟において対象になっているのは、下記登録商標であると思われます。

 商標登録第4940899号 区分:第9類、指定商品:電子計算機用プログラム他、類似群コード:11C01他

 一方、ZVC社はCovid19下、オンラインセミナー等で活発に使用されるようになったサービス「ZOOMミーティング」等を提供する米国の会社です。
 ZVC社は、日本において下記国際登録商標を保有しています。

 商標登録第1365698号 国際登録日:2017/08/04 区分:第38類 指定役務:音声会議通信他 類似群コード:38A01

 次に、ZVC社による「zoom」の使用がズーム社の登録商標を侵害するか検討しました。

 ○商標が類似するか?
  称呼が同一であるので、商標類似であると考えます。
  外観:異なる
  称呼:ズーム 同一
  観念:ズームから画像を拡大すること
 ○商品・役務が類似するか?
  ズーム社商標権の指定商品には、電子計算機用プログラムを含んでいます。電子計算機用プログラムには、電気通信ネットワークを通じてダウンロードできるものを含んでいます。
  ZVC社は、下画像のように、ZOOM Meeting等の名称で無料でダウンロード可能なアプリ(電子計算機用プログラム)を提供しています。このアプリは、電子計算機用プログラムに該当するので、商品同一です。

(出所:https://zoom.softonic.jp/

 よって、下図に示す、他人の使用を排除できる範囲に該当し、ZVC社による商標ZOOMの使用(被許諾者による使用を含む)は、ズーム社の商標権を侵害する可能性が大きいと考えます。

(出所:https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/shotoha.html

 ZVC社は、我が国において、NECネッツエスアイ社等の複数の代理店を通じてZOOMミーティング等のサービスを提供しています。よって、ズーム社が代理店(被許諾者)のNECネッツエスアイ社を提訴することは問題ありません。

 次に、本事件において想定される原因を考えてみました。
  ①ZVC社による我が国における商標調査が不十分であった可能性
   主サービスである音声会議通信に気をとられ、商標調査において、ダウンロード可能なプログラムの提供が配慮されなかった可能性があると考えます。
  ②被許諾社(NECネッツエスアイ社等)による商標調査が不十分であった可能性
 よって、商標調査が不十分であった可能性が主原因であると考えます。

 次に、対策を考えてみました。
 上記しましたように、商標調査が不十分であったことに起因するので、対策は簡単です。
  内外国において事業展開する場合、各国における先行登録商標の調査を十分に行うことです。ここで、商標を使用する商品・サービスを客観的に把握し、調査する範囲を定める必要があります。
  また、商標のライセンスを受ける場合であっても、自前で商標等を調査し、更に、契約書には知財係争が生じた場合、商標権者の責任において解決する旨の条項を入れるべきと考えます。

【ズーム社概要】
 株式会社ズーム (ZOOM CORPORATION)
 設立1983年9月9日
 資本金212,276,150円(2019年12月末現在)
 事業内容:音楽用電子機器の開発及び販売
 従業員:95名(2020年12月現在)

【ズーム社ビル】

(千代田区神田駿河台にて筆者撮影)

【ズーム社Webサイト】

(出所:https://ir.zoom.co.jp/corp_ja/index.html

【ZVC社概要】
 住所:米国カリフォルニア州サンノゼ
 設立:2011年
 従業員数:1,958 (2019年)

(出所:https://zoom.us/

【NECネッツエスアイ社概要】

(出所:https://ir.zoom.co.jp/corp_ja/index.htm

【ズーム社登録商標:表1】

以上