第49回 「ナイキ社の厚底シューズ特許戦略」

今月は千代田区神田多町2-11に鎮座する松尾神社を紹介します。創建年代等は不詳ですが、江戸時代から明治にかけて、同地に置かれていた青物市場の関係者を中心に崇敬され、現在は神田神社(神田明神)の兼務社になっているとのことです。

【松尾神社正面】 【社殿】 【左彫刻】 【右彫刻】

 

3月1日、東京オリンピックにおける男子代表選考を兼ねる東京マラソンが行われました。日本記録を上回る参加標準記録を突破して誰が代表になるのかとの話題と共に、大迫傑選手、設楽裕太選手が履くナイキ社の新厚底シューズが話題になりました。

【大迫選手がいる先頭集団】 【設楽選手がいる二番手集団】

(靖国通り淡路町交差点(スタートから約10Km地点)での激走 撮影:筆者)
なるようです(写真1)。

今回の厚底シューズは、「エアズームアルファフライネクスト%」という名称で、エリウド・キプチョゲ選手が、2019年に非公式記録で1時間59分40秒を出した時に使用したシューズと同一構造のようです(写真2)。土踏まず下の凹みと、母指球部のガスクッションが印象的です。

【写真1】 【写真2】

 

そこで、日本特許を調べたところ、実用新案登録第3224963号(登録日2020年01月14日) (図1)と、実用新案登録第3223999号(登録日2019年10月30日) (図2)がありました。報道によれば、厚いアウトソールと、カーボンプレートが強調されていますが、更に構造上の特徴があるようです。
登録第3224963号は、厚いミドルソールと、母指球の下方に位置する(炭素繊維からなる)板とが分離され、板の下方に配置されたエアクッションが特徴です。エアクッションと炭素繊維板の両方でクッション性と反発性を向上させているように推測されます。したがって、このシューズは母指球部で着地するフォアフット走法に適していると思われます。フォアフット走法とは、爪先着地走法・裸足走法とも言われているようです。これら用語からイメージされるように、踵ではなく、爪先側を先に着地する走法です。
登録第3223999号は、船首のようなアウトソール踵部の形状です。これによって、空気抵抗が減ると説明されています。

【図1】 【図2】

 

日本では、権利期間が短く、権利の安定性に欠ける実用新案登録を取得していることが意外でしたので、ナイキ社の特許戦略を考察してみました。

1、出願国
パテントファミリーを調査すると、出願国は、米国(第一国)、欧州、中国、韓国、及び日本が基本のようです。米国、欧州、日本は、競合メーカー対策が目的であると推測します。下表1に示すように、主要スポーツ品メーカーは、米国、欧州、日本において権利化することで、カバーできます。中国は市場と将来の競合対策が目的であると推定します。韓国には有力な、スポーツ用品メーカーがなく、また、人口5000万人であるので市場規模の魅力もなく、狙いが釈然としません。
売上額が4兆円に迫るナイキ社が、米、欧、中、韓、日に絞り込んでいる点は、注目すべき点です。筆者としては、韓国は不要であると考える次第です。

【表1】2018年度スポーツメーカー売上ランキングトップ5

(出所:https://ascenders-merci.com/articles/15)

2、出願技術
興味深いのは、シューズの構造のみならず、ランニング時のシューズに関するデーター取得装置を組み込んだデーター収集装置を数件特許出願していることです。競合に販売するわけでもなく、技術力のアピールが目的であると思われます。筆者としては、この手の技術は、先使用権の手当をした上で、秘匿しておくべきと考える次第です。
また、自動的に靴紐を締め付ける機構に関する特許を多数出願しており、2016年から発売されているようです。

3、出願種別
実用新案登録は2件のみであり、基本的には特許にて保護する方針であると思われます。2件の実用新案登録に関しては、2020東京オリンピック前に権利化し、競合他社を牽制する意図があるように推測しますが、技術は進歩するので、10年過ぎれば、陳腐化するとの発想かもしれません。

本来であれば、意匠出願、商標出願も調査し、これらを含めて分析すべきですが、これらは別の機会に行うこととしたいと思います。

新型コロナウイルスに打ち勝ち、東京オリンピックが予定通り開催されることを切に祈っています。

以上