第36回 「御社の営業秘密管理は大丈夫ですか?」 

今年も暑い夏がやってきました。今回は、前回ご紹介した妻恋神社から約300メートルの距離にある、皆さんよくご存じの湯島天満宮(天神)をご紹介します。創建当時(458年)は天之手力雄命(あめのたぢからをのみこと:天岩戸を引き開けた神様)が祀られたそうですが、その後菅原道真公も奉られるようになり、江戸時代には文教大いに賑わうように幕府から庇護を受けたとのことです。御茶ノ水駅から湯島聖堂~神田明神~妻恋神社~湯島天神の史跡巡りも楽しいものです。

2016年4月25日付の日本経済新聞電子版に、(株)エディオンが上新電機(株)に対し、営業秘密の不正使用に対する差止めと50億円の損害賠償請求訴訟を提訴したとの記事が掲載されました。事件の概要は、下図に示すように、エディオンの元課長が、上新電機に転職した際、エディオンのリフォーム事業に関する営業秘密を不正に入手し、上新電機における業務に使用していることに対する損害賠償等の請求です(不競法第2条第1項第8号)。この直前、元課長の営業秘密不正取得に対する懲役2年、執行猶予3年、罰金100万円(求刑懲役3年、罰金100万円)の刑が確定しました。しかし大阪検察は、元課長の事件に関連して「利益を得たとは評価しがたい」として上新電機に対しては起訴猶予にしました。
そこで、憤懣やるかたないエディオンは、当該刑事事件において提出された証拠類約3万点を精査して上新電機に対し提訴したものと思われます。
上新電機は善意で元課長を雇用したのかも知れません。上新電機が本訴訟で勝訴したとしても、裁判費用や社内工数、及び、企業イメージの低下を考えるとその代償は極めて大きく、同業者を雇用する際は、十分な注意が必要です。

もう少し詳しい事情を説明すると、元課長はエディオン在職中に、会社から貸与されたPCに無断で遠隔操作ソフトをインストールし、上新電機に入社後会社から貸与されたPCを使ってエディオン社内のPCにアクセスし、不正に4件の秘密情報を入手し、上新電機内で開示しました。さらに、元課長はエディオンにいる元部下に秘密情報をPDFファイルによって送信させていました。

元課長はなぜこのようなことができたのでしょうか?

エディオンは秘密情報管理として以下の措置をとっていました。
従業員のPCへのアクセス権として、IDとパスワード設定
退職時の誓約書において、1年間同業者勤務禁止規定
通常、退職すれば、IDとパスワードはすみやかに無効にされ、遠隔操作ソフトをインストールしたとしても、アクセスできないと思います。
しかし、エディオンには、特別なルールがあったのです。従業員が退職しても、90日間は、業務のため同一IDとパスワードによってアクセス可能であったのです。そのルールを悪用して元課長は犯行に及んだわけです。
更に、元課長は、退職二ヶ月後に上新電機に入社しており、1年間の同業他社への転職禁止誓約に完全に違反しています。
以上からおわかりのように、元課長はエディオンのシステム上の穴をついて秘密情報を入手したわけです。
エディオンとしても90日間同一IDとパスワードでアクセス可能とするなど脇が甘いとしか言いようがありません。
脇の甘さは、性善説の発想より生じたもとのと思われます。
ルールを作成してもそれを実行するのは人(従業員)であることから、秘密情報を守るためには法令遵守精神を従業員に根付かせると共に、不満を持たせないことが最も重要です。
哀しい話ですが、秘密情報を守るには、性悪説に則ってルールを作成し、運用することが重要と思います。

以上

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