第2回 米国における登録前情報提供制度の活用
改正米国特許法が2012年9月16日から施行されて10ヶ月を経過しました。そこで、米国において障害となる特許への対策について考えてみました。
改正法上、障害特許(出願中を含む)に対する対抗手段は、次の(ⅰ)~(ⅲ)です。
(ⅰ)登録前情報提供(特許許可通知又は拒絶通知前に限って第三者が情報提供できる制度)
(ⅱ)付与後異議申立制度(登録後9ヶ月経過するまでの間、第三者が特許の見直しを求めることができる制度)
(ⅲ)当事者レビュー(登録から9ヶ月経過後、第三者が刊行物等に基づく新規性・非自明性の見直しを求めることができる制度)
登録前情報提供は我が国における情報提供と同様の制度であるが、登録後は情報提供することはできません。
付与後異議申立制度は、我が国において従前存在していた付与後異議申立と同様の制度であり、当事者レビューは我が国の無効審判制度と同様の制度です。
登録前情報提供は改正前にも存在していましたが、提出できる期間が出願公開の日から2ヶ月間と極めて短期間であり、準備期間を考慮すると使い勝手が悪い制度でした。
それが今回の改正により、許可通知の発送日前であれば、(a)出願公開日から6月以内、又は、(b)最初の拒絶日、の何れか遅い日までに提出すればよく、大幅に拡大されました。現在の米国における審査状況を考慮すれば、出願公開日から6月以内に情報提供すれば十分間に合うのではないかと考えます。
また、登録前情報提供は、提供者適格が第三者であるので、匿名による提供が可能であり、提供者を特許出願人に知られたくない場合、極めて有効です。
特筆すべきは費用であります。付与後異議申立制度にしろ、当事者レビューにしろ、米国特許商標庁(USPTO)費用として約300万円、弁理士手数料として同額程度必要であると予想され、600万円を超すのではないかと考えられます。
これに対し、登録前情報提供はUSPTO費用が原則無料であり、代理人手数料のみになること、及び、提出書類の記載内容は刊行物等と発明との関連性でよいことから付与後異議申立等に比べれば作成労力が軽減されることから、その手数料は大幅に安価になることが見込まれます。
審査官は、提出された書式については必ずチェックしなければなりませんが、審査に活用しなければならないという審査官を拘束する規定はなく、提出意図を考慮した審査がなされるか未知数であり、有効な手段であるかどうか疑問があることも確かです。
しかし、登録前情報提供は審査官に対し、将来の特許紛争を予測させ、合理性のある審査をしなければならないという相当のプレッシャを与えると思われることから、提出者の意図を汲んだ審査をするケースが多いと推測されます。
また、我が国のように提供刊行物等が審査において採用されたか否かのフィードバック制度は無いものの、審査経過情報を閲覧すれば把握することができます。
もし、特許された場合であっても、提供刊行物等の解釈に誤りがあった場合、又は、見落としがあった場合には、同一の刊行物等によって付与後異議申立制度又は当事者レビューが可能であると考えます。
USPTOの集計では、昨年9月から本年2月までの間に登録前情報提供が440件受理されたとのことです。
この数字が多いか少ないかは各人の判断にお任せするとして、登録前情報提供は費用面で魅力的な制度であることは明らかです。
【比較表】
以上