第1回 知財界における2015年問題について
縁有って、本コラムを執筆させて頂くことになりました弁理士の本谷です。
知財には、社会人になって以来、40年来関わって参りました。
当初の特許権の取得を主たる業務とする特許部時代は日陰的存在でしたが、徐々に日が当たるようになり、特許に加えてノウハウ・著作権等を含めた知財マネジメントを主たる業務とする知的財産部の時代には表舞台に立つようになり、隔世の感があります。では、今後の知財部署はどのようになるのでしょうか?
知財マネジメントに加えて「知的資産の創出と普及」が主要業務となるプロイノベーションの時代になるといわれる中、知財業務(知財部)は如何にすべきかを、皆様と共に考えて参りたいと思います。
さて、今回は、知財業界において話題になっている(?)特許の2015年問題について考えたいと思います。
特許の2015年問題とは、次のグラフから明らかなように、2008年度から審査請求件数に対し、一次審査件数が上回り、2015年には我が国特許庁における出願滞貨が一掃され、新出願の審査に即時に入れる状態になることが推測されています。
すなわち、我が国においても拒絶理由が無ければ出願後1年以内に特許になる時代に突入するということです。
出典:産業構造審議会第18回知的財産政策部会(平成24年6月25日)資料1
特許庁の発表によれば、上記グラフから推測されるように、この状況が前倒しされ、2013年度には実現しそうです。
これがなぜ問題?と思われる方がおられると思います。
誰にとって問題かというと、私たち特許事務所において、仕事が減少するという問題です。
しかし、観点を変えて出願人の立場からすれば、願ってもない好機であり、好機として活用すべきであると思います。従来は、早さと品質を考慮して、米国又は欧州特許出願を中心に据えて安定的権利を早期権利化しようと考えていたのではないでしょうか?
しかし、ホームグラウンドである我が国において最も早く権利化できるのですから、最大限に活用したいものです。特に、ネイティブ言語でクレームを検討できるメリットは大きいと思います。また、日本の審査官の審査力は世界的にトップクラスです。したがって、日本で特許を取得することは、安定した特許をいち早く取得できるということです。
また、特許審査ハイウエイ(PPH:Patent Prosecution Highway)は既に、米国、欧州、中国、韓国、独等、主要25ヶ国(2013年3月1日現在)と締結し、我が国から外国にされる特許出願の90%以上において利用可能な状況です。
PPHのメリットとして、①早い(簡易な早期審査手続き+オフィスアクション減少)、②安い(オフィスアクション減によるコスト削減、PPH申請自体は原則無料)、③嬉しい(特許率の向上)が有ります。
特に、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)出願において、日本の特許庁が肯定的評価をした場合、日本の特許庁に対しPCT-PPHを申請して特許査定を得た後、外国特許庁に対しPPHを申請すれば、短期間で特許が受けられることが予想されます。したがって、主要国において安定した特許を取得するには、日本において早期に特許を取得し、PPHを使用することが最も効率的な時代が目前に迫っています。
さらに、PCT-PPHを活用することによりコスト削減が可能であると推測されます。もちろん、日本語の曖昧さを自覚したクレーム作り等留意すべき点は多々存在しますが、一考の価値があると思います。特に、人的・資金的に不利な中小企業において、グローバル化の一策として活用されることをお薦め致します。
以上