第99回コラム 「AIが発明者になる時代が来るかも」

 今回は、東京メトロ・都営浅草線「浅草」駅より徒歩約7分の浅草神社、通称三社様(さんじゃさま)境内に鎮座する、被官稲荷神社(ひかんいなりじんじゃ)(台東区浅草2-3-1)をご紹介します。お社は、間口1.5メートル×奥行約1.4メートルと小型ですが杉皮葺で覆われ、大地震及び戦火を免れて安政二年(1855年)の創建時の姿を保っています。幕末の侠客、新門辰五郎によって建立された石鳥居があります。

【新門辰五郎建立鳥居】
 
【神額】
 
【社殿前】
 
【社殿】
(筆者撮影)

2024年5月17日の夕刊に、人口知能(AI)が発明者になるかの東京地裁の判決が紹介されていたので調べてみました。

【対象特許出願の経緯】
2019年9月17日 国際出願PCT/IB2019/057809(末尾参考参照)
発明の名称「フードコンテナ並びに注意を喚起し誘引する装置及び方法」
2020年8月5日 国内書面及び日本語翻訳文を提出 日本出願番号特願2020-543051号
発明者の氏名として、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載
2021年7月30日 特許庁長官は、自然人の氏名を記載するよう補正指令
2021年9月30日 出願人は、補正応答は不要であるとの上申書提出
2021年10月13日 特許庁長官は、出願却下処分
2022年1月17日 出願人は審査請求
2022年3月9日 特許庁長官は弁明書提出
審査庁は審査請求の棄却
出願人は取消訴訟提訴 令和5年(行ウ)第5001号
2024年5月16日判決言渡

【争点】は以下です。
特許法にいう「発明」とは、自然人によるものに限られるかどうかである。

【裁判所の判断】の概要は下記の通りです。
1  我が国における「発明者」という概念
知的財産基本法は、特許その他の知的財産の創造等に関する基本となる事項として、発明とは、自然人により生み出されるものと規定していると解するのが相当である。そして、特許法についてみると、発明者の表示については、同法36条1項2号が、発明者の氏名を記載しなければならない旨規定するのに対し、特許出願人の表示については、同項1号が、特許出願人の氏名又は名称を記載しなければならない旨規定していることからすれば、上記にいう氏名とは、文字どおり、自然人の氏名をいうものであり、上記の規定は、発明者が自然人であることを当然の前提とするものといえる。
特許法29条1項は、発明をした者は、その発明について特許を受けることができる旨規定している。
AIは、法人格を有するものではないから、上記にいう「発明をした者」は、特許を受ける権利の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいうものと解するのが相当である。
自然人の創作能力と、今後更に進化するAIの自律的創作能力が、直ちに同一であると判断するのは困難であるから、自然人が想定されていた「当業者」という概念を、直ちにAIにも適用するのは相当ではない。
AI発明に係る制度設計は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねることとし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組みの在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方とみるのが相当である。
まずは我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されているものであることを、最後に改めて付言する。

【AIが発明者になる可能性は大?】
 判決において、「立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されているものである」と敢えて付言しており、近い将来、AIがなした発明が特許される可能性は大きいと思われますが、発明者がAIになるかは全く不明です。

【他国の状況】
 本願の対応出願は、米国でも争われていました。米国連邦巡回区控訴裁判所は、2022年8月5日、特許法には「発明者(inventors)」は「個人(individuals)」であると定義されており、その意味するところは「自然人(natural persons)」、すなわち「人間(human beings)」でなければならないとして、Thaler氏の特許出願を認めなかった米国特許商標庁の判断を支持する判決をしました

参考PCT/IB2019/057809 WO2020/079499A1

以上