第120回コラム 「雨樋に関する特許権侵害訴訟から思うこと」
今回は、都営新宿線「岩本町駅」から徒歩約6分に鎮座する金山神社(カナヤマジンジャ)(千代田区岩本町2-1-5)をご紹介します。
同社は、東京金物同業組合が総本宮南宮大社(岐阜県不破郡垂井町に所在し、金属業の総本宮として崇敬されています。)の御分霊を組合事務所に奉斎し創建され、その後昭和29年に再建されたとのこと(明星稲荷神社由来より)。




(筆者撮影)
今回は、令和5年(ワ)第70402号特許権侵害差止等請求事件についてご紹介します。
本事件は、積水化学工業株式会社(以下、「積水化学工業」)パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社およびケイミュー株式会社((以下「パナソニックら」))に対し、「サイフォン雨樋システム」に関する2件の特許権侵害を主張した事件です。
東京地裁は、パナソニックらの無効論を退け、侵害を認定し、損害賠償を命じました。なお、本事件は現在控訴審に付されています。
特許発明は、排水パイプを大径化することなく、排水量を増大可能なサイフォン雨樋システムに関します。
原告の特許権は下記に2件です。
- 特許第6784708号(出願日2018年1月9日)特許発明1
- 特許第7239774号(出願日2018年6月22日)特許発明2
本事件の主要争点は以下の4点ですが、本稿では特許発明1(請求項1)の充足論と無効論に焦点を当てます。
- 被告製品の充足性
- 無効理由(特に進歩性)
- 間接侵害論
- 損害額
特許発明1は、大量の雨水の流量を排水パイプ径の増大や本数を増やすことなく増大するための発明です。
請求項1の構成要件は、下記の通りです。
1-1-A 軒樋と、
1-1-B 前記軒樋の底面に形成された集水口を貫通する筒状部を備え、且つサイフォン現象を発生させるためのサイフォン発生部と
1-1-C 前記サイフォン発生部を有する雨樋上流部の下流側に一端が接続された第1エルボと、
1-1-D 前記第1エルボの他端に一端が接続された呼び樋と、
1-1-E 前記呼び樋の他端に一端が接続された第2エルボと、
1-1-F 前記第2エルボの他端に一端が接続された竪樋と
1-1-G を備えたサイフォン雨樋システムであって、
1-1-H 前記第1エルボ及び前記第2エルボはそれぞれ、
1-1-H-1 管軸を含む平面における断面で見たときに、内周側の内壁面及び外壁面の曲率半径が64mmよりも大きく125mmよりも小さく、且つ、開口面積が50c㎡以上である曲管部と、
1-1-H-2 前記曲管部の両端に設けられた受け口と、を備え、
1-1-I 前記呼び樋の長さは0mより大きく、且つ2.0m以内である
1-1-J ことを特徴とするサイフォン雨樋システム。
【概略図】

【パナソニックらの構造】

(出所:令和5年(ワ)第70402号判決書13頁のコピー)
【パナソニックらの主張】
| 番号 | 特許第6784708号請求項1 | 被告の主張 | 説明 |
| 1-1-A | 軒樋と、 | 軒とい | 同一 |
| 1-1-B | 前記軒樋の底面に形成された集水口を貫通する筒状部を備え、且つサイフォン現象を発生させるためのサイフォン発生部と | 良好なサイフォン現象発生を発生させることが必要 | サイフォン現象を発生させる部位 |
| 1-1-C | 前記サイフォン発生部を有する雨樋上流部の下流側に一端が接続された第1エルボと、 | 大曲エルボ1 | 同一 |
| 1-1-D | 前記第1エルボの他端に一端が接続された呼び樋と、 | ビニルパイプ1 | 同一 |
| 1-1-E | 前記呼び樋の他端に一端が接続された第2エルボと、 | 大曲エルボ2 | 同一 |
| 1-1-F | 前記第2エルボの他端に一端が接続された竪樋と | ビニルパイプ2 | 同一 |
| 1-1-G | を備えたサイフォン雨樋システムであって、 | 高排水システム | 同一 |
| 1-1-H | 前記第1エルボ及び前記第2エルボはそれぞれ、 | 大曲エルボ1及び2 | 同一 |
| 1-1-H-1 | 管軸を含む平面における断面で見たときに、内周側の内壁面及び外壁面の曲率半径が64mmよりも大きく126mmよりも小さく、且つ、開口面積が50c㎡以上である曲管部と、 | 曲率半径は64より大きく125より小さい。面積は100c㎡ | 同一 |
| 1-1-H-2 | 前記曲管部の両端に設けられた受け口と、を備え、 | 大曲エルボ両端は開口 | 同一 |
| 1-1-I | 前記呼び樋の長さは0mより大きく、且つ2.0m以内である | 施工業者が決定する | 被告は1.0m以内を推奨につき同一 |
| 1-1-J | ことを特徴とするサイフォン雨樋システム。 | 髙排水システム | 同一 |
パナソニックらは、従来技術でも自然にサイフォン現象が発生するのでサイフォン発生部が存在するとして無効論を主張しました。
しかし、裁判所は構成要件1-1-H-1を根拠として有効性を認定しました。
従来技術にはエルボの曲率半径や開口面積に関する具体的数値が記載されておらず、本件明細書にはこれらの数値がサイフォン状態の安定化に寄与する旨が記載されていることから、裁判所は数値限定に臨界的意義があると判断し、進歩性を肯定しました。
充足論では1-1-B「前記軒樋の底面に形成された集水口を貫通する筒状部を備え、且つサイフォン現象を発生させるためのサイフォン発生部と」の表現が機能的であるため、その解釈が争点になりました。
広く権利化するため、機能的表現をする場合がありますが、機能的表現は可及的に避けるべきと思います。
機能的表現をする場合、無効リスクが高くなる傾向があります。
よって、特許請求の範囲は、発明の本質部分は構造で特定すべきです。
本事件では、以下の観点で構造を特定すべきであったと思います。
(1) 水密構造
(2) 筒状部の下端位置
(3) 負圧形成構造
(4) 流路断面の変化
また、数値限定する場合、発明の本質であれば強力な権利ですが、本質を外した場合、権利範囲が狭くなりますので注意が必要です。
なお、充足論の帰結が予想出来ない場合、侵害回避品に変更することも差止をさけるために有効です。
以上


