第113回コラム 「意匠権侵害訴訟から考える知財におけるAIの活用の可能性を探る」
今回は、東京メトロ半蔵門線清澄白河駅より徒歩約7分の、株式会社エーデルワイス東京ファクトリーラボ&清澄ベーカリースタジオの敷地内に鎮座する大黒稲荷大明神(ダイコクイナリダイミョウジン)(江東区清澄1-8-10)をご紹介します。出自は不明でしたので、写真のみの紹介です。




(筆者撮影)
今回は、令和3年(ワ)第20229号の意匠権侵害差止等請求事件を紹介しようと準備を始めましたが、期せずして、AIの図形作成能力の比較になりました。
まず、本事件を簡単に紹介します。
八幡化成株式会社※1は、自社の意匠登録第1472070号に基づいて、100円ショップを展開している株式会社大創産業に対し、差止及び廃棄請求と損害賠償を求めて提訴した案件です。
裁判所は、両意匠は形状・把手構造・素材等の基本的構成に共通性があるうえ、需要者に共通の印象を与えると判断し、両意匠は類似すると認定しました。
被告大創産業は無効の抗弁として、公知意匠との類似性や創作の容易性、本件出願前の公然実施等を主張しましたが、いずれも証拠が不十分として退けられました。
結果、原告意匠は有効であり、被告の行為は意匠権侵害であるとされ、差止・廃棄請求が認められ、損害額については、被告商品の売上、及び弁護士費用等を基にした損害賠償金約944万円の支払いが命じられました。
※1 https://www.hachimankasei.co.jp/index.html
【意匠登録第1472070号】





大創産業が販売した商品形態が不明であったので、裁判において採用された意匠の定義文を基に無料のAIである Copilot 及び ChatGPT を使って侵害品の図面を作成してみました。
最初に、裁判におけるイ号の定義文である下記の質問1で作成させました。
【質問1】
以下によって定義される意匠を描け。
1.基本的構成態様
① 略楕円形状で小判型の底面とこれより大きい略楕円形状で小判型の上面とからなる中空の逆略楕円錐台形状の上面が開口された形状をなす収納容器本体と、その収納容器本体の長手方向の両端上部に対向して設けられた縄紐からなる一対の把手とから構成されている。
2.具体的構成態様
② 収納容器本体は、軟質の合成樹脂で一体に形成されており、正面視及び背面視において、収納容器本体の上辺の長さと下辺の長さと高さの比率は、イ号意匠では約10:8.1:7.7で、側面視において、収納容器本体の上端部の幅と下端部の幅の比率は、イ号意匠では約6.8:5.1であり、イ号意匠の正面視及び背面視における収納容器本体の中央の高さと両端の高さの比は1:1である。
③ 一対の把手は、二本の短い縄紐からなっており、収納容器本体の長手方向の両端上部の側面に対向して穿設された左右一対の小さな透孔に太さのある縄紐の両端部を前記収納容器本体の外側からそれぞれ挿通し縄紐の各端部に大きな止め結びを形成し、その止め結びの先の縄紐がほつれて末広がり状となっていて、その止め結びの存在が収納容器本体の上端の開口から見えるようになっており、収納容器本体の外側に存在する縄紐はU字状に垂下して設けられている。
④ 正面視及び背面視において、収納容器本体の上辺は水平な直線形状である。
⑤ 収納容器本体底面の長手方向両端の円弧状部には、その円弧の中央部とその両側に等間隔でそれぞれ三個の小さな突起が設けられている。
⑥ 側面視において、収納容器本体の上辺は水平な直線形状である。
同一の質問1を入力して、ChatGPTとCopilotに描かせたのが下図であり、ChatGPTの方が忠実に描いていますが、図としてはCopilotの方が写真のようにリアル感があります。


次に、命令を六面図を描けにしたところ、下図のように出力され、細縄の形態の整合性がとれていない等、不十分な図が出力されました。
【Copilot】






【ChatGPT】






次に命令を少し変えた下記質問2で作成してみました。
下線部が修正部分です。
【質問2】
以下によって定義される意匠の六面図を描け。
1.基本的構成態様
① 略楕円形状で小判型の底面とこれより大きい略楕円形状で小判型の上面とからなる中空の逆略楕円錐台形状の上面が開口された形状をなす収納容器本体と、その収納容器本体の長手方向の両端上部に対向して設けられた縄紐からなる一対の把手とから構成されている。
2.具体的構成態様
② 収納容器本体は、軟質の合成樹脂で一体に形成されており、正面視及び背面視において、収納容器本体の上辺の長さと下辺の長さと高さの比率は約10:8.1:7.7で、側面視において、収納容器本体の上端部の幅と下端部の幅の比率は約6.8:5.1であり、正面視及び背面視における収納容器本体の中央の高さと両端の高さの比は1:1である。
③ 一対の把手は、二本の短い縄紐からなっており、収納容器本体の長手方向の両端上部の側面に対向して穿設された左右一対の小さな透孔に太さのある縄紐の両端部を前記収納容器本体の外側から内側へそれぞれ挿通し縄紐の各端部に大きな止め結びを形成し、その止め結びの先の縄紐がほつれて末広がり状となっていて、その止め結びの存在が収納容器本体の上端の開口から見えるようになっており、収納容器本体の外側に存在する縄紐はU字状に垂れ下がっている。
④ 正面視及び背面視において、収納容器本体の上辺は水平な直線形状である。
⑤ 収納容器本体底面の長手方向両端の円弧状部には、その円弧の中央部とその両側に等間隔でそれぞれ三個の小さな突起が設けられている。
⑥ 側面視において、収納容器本体の上辺は水平な直線形状である。
⑦ 正面図及び背面図において、縄紐は同一形状に表れる。
【質問2で作図させた図】
【copilot】






【ChatGPT】






細縄の形態の整合性等がまだまだ不十分です。
この後、定義文の一部を変えて何回かやってみたのですが、細縄の形態の整合性の問題が解消できないうちに、時間切れになりました。
以上より、外形が固定された意匠の定義を確認するには十分使用できると考えます。しかし、柔軟性のあるものを含む意匠の定義の確認には更なる工夫が必要であると思われます。
以上