第110回コラム 「商標の指定商品と指定役務の類否判断」
今回は、地下鉄日比谷線人形町駅より徒歩約10分に鎮座する日本橋中洲金刀比羅宮(チヨダナカスコンピラグウ)(中央区日本橋中洲11-1)をご紹介します。
同社は、天明三年に創建され、隅田川往来の船人の守護神、及び商家等から信仰を集めたとのこと。当地は、安永年間(1773~1780)には大歓楽街として賑わっていたとのこと。




今回は、令和6年(行ケ)第10028号審決取消請求事件において争われた指定商品と指定役務の類否判断について紹介します。
原告株式会社ジーウェーブは、自社商標登録第6217436号(以下「原告商標権」という。)を引用商標として、被告登録商標第6320554号の指定役務「あん摩・マッサージ及び指圧、カイロプラクティック、きゅう、柔道整復、整体、はり治療、医療用機械器具の貸与」を含む指定役務に対し、4条1項11号違反(先願に係る他人の登録商標)を理由として無効審判を請求しました。
特許庁は、無効2023-890053号事件として審理を行い、令和6年2月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をしました。
原告は本件審決を不服として、知財高裁に本件審決の取り消しを求めて本訴を提起しました。
争点は、被告商標権における指定役務と原告商標権における指定商品の類否でした。
本件審決において、被告商標権における指定役務中の「医療用機械器具の貸与」と原告商標権における指定商品中の「医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)」は、非類似であると判断しました。
なお、商標は、両者とも「AWG治療」(標準文字)であるため争点になりませんでした。 特許庁の審査基準によれば、商品と役務のクロスサーチは行われず、同一の類似群コードが付されている場合、機械的に類似するとして判断されています。本件においては、下表のように類似群コードが異なります。

審査基準によれば、商品と役務の類否判断は以下の4つの基準によって判断されます。
① 商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか
② 商品と役務の用途が一致するかどうか
③ 商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか
④ 需要者の範囲が一致するかどうか
本件審決において、上記各判断基準に照らして以下のように判断しました。
- 商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうかについて
「医療用機械器具の製造販売業と貸与業の両方の許可を受けている企業が多いことについて、商工組合日本医療機器協会のウェブサイト(甲5、甲6)によれば、77社確認することができ、そのうち両方の許可を受けている企業は53社であり、全体の68.8%となる(甲7)。
また、医療機器の販売業と貸与業の許可申請が同一の申請書で同時に行うことができる東京都の「高度管理医療機器等販売業・貸与業許可申請書」(甲8)等から同一の事業者によって販売業と貸与業が行われているのが一般的である」点については、被請求人(被告商標権者)が提出した厚生労働省の令和3年版厚生労働白書(資料編「保険医療」)(乙12)によれば、令和2年末における医療機器の製造販売業許可数は、2,799件となっていることからすると、甲7における68.8%は、医療用機械器具を取り扱う業界の一団体の状況を説明したにすぎないから、医療機器を取り扱う事業者の一般的な傾向とはいえない。
また、東京都の「高度管理医療機器等販売・貸与業許可申請書」が販売業と貸与業の許可申請が同時にできるとしても、両方の業務を同時に申請している証拠とはいえないことからすると、請求人が提出した証拠資料からは、「医療用機械器具の貸与」の役務の提供に係る事業者と「医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)」の製造・販売に係る事業者が同一の事業者により行われているとはいえない。
- 商品と役務の用途が一致するかどうかについて
「医療用機械器具の貸与」は、他人の求めに応じて物品(「医療用機械器具」)を貸与することが当該役務の本質といえることから、その用途は、「医療機器の貸与のため(用)」であるのに対し、「医療用機械器具」の用途は、正に「医療用」の商品そのものであるから、必ずしも用途が一致するとはいえない。
- 商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうかについて
一般に医療機器の販売については、その製造販売業の許可を受けたメーカーである企業等において行われ、また、医療用機械器具の貸与については、医療機器の貸与の許可を受けた企業によりリース・レンタルが行われていることからすると、必ずしも商品の販売場所と役務の提供場所が一致するとはいえない。
- 需要者の範囲が一致するかどうかについて
「医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)」の需要者には、病院・診療所等の医療機関のみならず、一般の需要者等も含まれており、また、「医療用機械器具の貸与」に係る需要者は、リース・レンタルを受ける病院・診療所等の医療機関等であると理解されることからすると、互いの商品及び役務の需要者の範囲の一部において一致する場合があるといえる。
- まとめ
上記より、需要者の範囲の一部において一致する場合があるとしても、一般的、恒常的な取引の実情を勘案して総合的に考慮すると、当該役務と商品とは相違するものである、と判断しました。
○ 知財高裁(第4部)の判断
ア 類否判断基準
商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われている実情の有無・程度、商品と役務の用途の共通性、商品の販売場所と役務の提供場所の同一性、商品と役務の需要者の重なり具合等を総合的に考慮し判断するのが相当である(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。
イ 事業者について
多数の医療機器メーカー等について、製造・販売と貸与(レンタル・リース)の両方の事業を行っていることが認められる。
医療機器の製造販売業又は販売・貸与業の許可等を受けている企業が77社あり、そのうち、製造販売業と販売・貸与業の両方の許可等を受けている企業は53社(68.8%)あることも認められ、約3分の2の割合という多数の製造・販売業を行う事業者が、貸与業も行うことができる状況にある。
ウ 用途について
貸与の用途は、医療用機械器具の医療目的での使用ということができ、本件指定商品・医療用機械器具の用途と共通するといえる。
エ 提供場所・販売場所について
事業者は、ホームページを設けて申込みや問合せを受け付けており、その際には販売と貸与を共に説明していること(甲68~71)に鑑みると、医療用機械器具の販売場所と貸与の提供場所は、いずれも当該企業の営業所所在地やインターネット上のホームページ(同一のサイト)等であると認められる。
そうすると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具については、提供場所・販売場所が同じである場合が多いということができる。
オ 需要者の範囲について
本件指定役務・医療用機械器具の貸与においても、広く一般の需要者(消費者)が想定されている場合があることが認められるから、両者の需要者は実質的に重なるといえる。
カ まとめ
本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具の製造・販売とは、同一事業者によって行われている例が多数みられ、これらの用途は共通し、販売場所と提供場所は同一である場合が多く、需要者の範囲は実質的に重なっているということができる。
このような取引の実情を踏まえると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本件指定商品・医療用機械器具に同一の構成の商標(「AWG治療」)を使用する場合には、同一の営業主体の製造・販売又は提供する商品・役務と取引者・需要者に誤認されるおそれがあるというべきである。
キ 商標権の効力の観点からの弊害について
「AWG治療」の商標を医療用機械器具に付した上でこれを貸与する行為(当然に「引渡し」を包含する。)は、通常、本件商標に係る商標の使用と認めるのが自然であり(同法2条3項3号)、商標権の及ぶ範囲の重複・抵触が生じかねない。
このような状況を招来させるのは、権利範囲の問題と登録要件の問題が理論上は別個の問題であるにせよ、商標法全体の整合的解釈という観点からは好ましいことでない。
※私見※
商標権者は、原則、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有します(25条)。
しかし、上記しましたように、商品と役務の類否は類似群コードによってのみ行われているので、同一又は類似する商標が商品区分と役務区分において登録される可能性があります。
商標権が法4条1項11号によって無効になった指定商品又は指定役務については、安心して使用することができません(25条、37条)。
そこで、出願した商標を実際に使用している場合には、登録商標であっても使用しても問題無いか再確認することをお勧めします。
以上