第103回コラム 「その侵害警告や削除要請は信用毀損行為になりませんか?(不競法第2条第1項第21号)」

今回は、東京メトロ東西線・日比谷線茅場町駅より徒歩約2分の亀島川沿いにある純子稲荷神社(じゅんこいなりじんじゃ)(中央区八丁堀3-28-15)をご紹介します。

純子稲荷神社は、長禄元年(1457年)、太田道灌が千代田城(現江戸城)築城の折、守護神として京都伏見稲荷を勧請して城地内・北の丸に創建した”千代田稲荷神社“の縁起をひき継いでいるとのこと。

名前の由来は、“純心な精神を子々孫々に伝え遺すにふさわしく”との意をもって、“純子稲荷神社”と命名されたとのこと。

(出所:純子稲荷神社オフィシャルサイト (junkoinari.jp))

【正面】
【神額】
【社殿】
【由来書】

 (筆者撮影)

知的財産権に関する訴訟は、年間500~600件程度発生しています(グラフ1参照)。

一説によると、訴訟に到らない知財侵害係争数は、訴訟件数の10倍以上あると言われています。

グラフ1 (出所:https://www.ip.courts.go.jp/documents/statistics/index.html)

皆様においても、被疑侵害品の製造業者に対し警告したが話がつかず、当該被疑侵害品の卸売り会社又は小売り会社に警告書を送りつけたいと思う場合もあると思います。

また、近年は、Amazon等のECサイト(インターネット上で買い物ができるサイト)において、商標権等の被疑侵害品サイトの削除要請が比較的容易に行えるので、実際に要請を行い、削除をされた方もおられると思います。

しかし、侵害警告やECサイトにおける削除要請は、信用毀損行為(営業誹謗行為)に問われる恐れがあるので慎重に行う必要があります。

根拠条文は以下です。

(定義)

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

 ~中略~

二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為

すなわち、第二条第1項第二十一号は、競争関係にある会社の信用毀損行為を規定しています。

信用毀損行為の典型的な例としては、他社商品と比較して自社商品の長所をアピールする比較広告や知的財産権侵害の警告が挙げられます。

信用毀損行為の成立要件は以下の①~⑤です。

① 競争関係にある他人であること

同種の商品又は役務を扱うような関係にあればよく、現実に競争関係が存在してることを要せず、市場において競合が生じるおそれや潜在的競争関係があれば足りるとされています。

他人とは、「当該他人の名称自体が明示されていなくても、当該告知等の内容及び業界内周知の情報から、当該告知等の相手方となった取引先において『他人』が誰を指すのか理解できるのであればそれで足りる」(東京地裁平成18年7月6日判決平成17年(ワ)第10073号 損害賠償請求事件)とされています。

② 営業上の信用を害すること

「営業」とは、利益を得る目的で継続的に事業を営むこと、「信用」とは、確かなものと信じて受け入れること、及び「害する」とは、傷つけること、妨げることですので、直接的又は間接的に誹謗、中傷等する行為が該当すると思われます。

③ 虚偽の事実であること

「虚偽」とは、うそ、いつわりです。「~かもしれない」「~のようである」といった推測的な表現であっても、信用毀損行為に該当する場合があると思われます。

④ 告知・流布をしたこと

「告知」とは、告げ知らせること、通知することです。

「流布」とは、世に広まること、広く世間に行き渡ることです。

警告書送付や口頭での警告、又はECサイトの削除要請等がこれに当てはまり、必ずしも現に信用が低下し、又は損害発生までは必要ないと思われます。

特許権者が、事実的、法律的根拠を欠くことを知りながら、又は、特許権者として、特許権侵害訴訟を提起するために通常必要とされている事実調査及び法律的検討をすれば、事実的、法律的根拠を欠くことを容易に知り得たといえるのにあえて警告をなした場合には、競業者の営業上の信用を害する虚偽事実の告知又は流布として違法となると解すべきであるのが相当と判示されています(東京高等裁判所平成13年(ネ)第5555号(原審・東京地方裁判所平成12年(ワ)第11657号))。

したがって、競合相手に警告書を送付する場合、事前に、先行技術を調査して自社権利に無効理由が無いか、及び弁理士等の鑑定書によって競合品が権利範囲に含まれることを確認して行う必要があると思います。これらの権利は、権利の境界が比較的明瞭であるので、一部を除いてそれほどハードルは高くないと思われます。

一方、著作権や不競法上の商品形態模倣は、特許権、商標権等と比較し、権利の成立判断、侵害判断に関し、慎重に検討する必要があると思います。  特に、模倣されたと思う人は自分の権利を広範に捉え、感情に駆られて安易に削除申請を行ってしまうことがあると思われます。しかし、ここは冷静に専門家等の第三者の意見を参照して削除要請を行うか判断すべきと思います。

信用毀損行為判例(一部)を下記致します。

事件番号裁判所認定理由
令和4年(ワ)第70009号東京地裁不競法×商品表示非該当
令和4年(ワ)第11394号大阪地裁著作権非侵害
令和4年(ネ)第10111号
令和3年(ワ)第22940号
知財高裁
等挙地裁
特許権非侵害特許無効
令和4年(ワ)第2188号大阪地裁不競法商品表示非該当
令和5年(ネ)第1384号
令和3年(ワ)第11472号
大阪高裁
大阪地裁
著作権非侵害非類似
平成30年(ワ)第22428号東京地裁商標権非侵害商品非類似
平成17年(ワ)第10073号東京地裁特許権非侵害特許無効